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世界にスケールするアイデアを虎ノ門から。イノベーション・エコシステムが機能する街づくり

多彩な都市機能を集約した「コンパクトシティ」をつくり、育んでいる森ビル。中でも虎ノ門ヒルズエリアでは、スタートアップと大企業が活発に交流し、新しいビジネスを創出する「オープンイノベーションの場づくり」にも力を注いでいます。
 
今回お話を伺う大林直臣さんは、オフィスへの企業誘致の仕事を通して、オープンイノベーションの手法に着目。新しい産業創出の実現に向けて、早くから検討してきたといいます。そして、街全体で絶えずイノベーションが生まれる「イノベーション・エコシステム」の構築もーー。
 
虎ノ門の街は今後、都市の未来にとってどのような意味を持つ街になるのでしょうか? 現在に至るまでの経緯と、目指す方向性が語られました。

大林 直臣|Naoomi Ohbayashi
2002年森ビル入社。総務部、情報システム部などを経て、2010年よりオフィス事業部営業推進部にて、調査、企画業務等に従事。2018年に日本進出したオンデマンド型シャトルサービスのVIA社との共同プロジェクトの推進をはじめ、新規事業創出、イノベーションを支援するプログラムの企画・運営などを担当。

新しい時代に必要なサービスを。森ビルにオープンイノベーションが必要だった理由

最初のきっかけは十数年前のリーマンショックの頃にさかのぼります。オフィス事業部では、大きな事業環境の変化に備え、部署全体で「新しい顧客像」や「我々が提供できる価値」についてあらためて見出そうとしていました。その答えのひとつが、「新しい価値を創出し、次世代に必要なサービスをつくりだす会社にご入居いただき、一緒に街をつくっていく」というものだったのです。
 
その構想を実現するため、多くのプレーヤーと数年かけて対話しながら、様々な社会課題の解決をともに探っていく方向へと森ビルのオフィス事業も少しずつ変化していきました。

2016年ごろからは、デジタルを使った第4次産業革命が起こると言われるようになり、「デジタルを活用しないとものづくりはビジネスにならない」「異業種が突然業界の垣根を超えて産業流入してくる」と予見され始めました。そうなると、クローズドイノベーションだけでは加速する世の中の変化のスピードに追いつきません。自分たちの得意なことと他の会社の得意なことを掛け合わせて、新しいものを創り出す「オープンイノベーション」に今こそチャレンジすべきだと考え、そのフィールドづくりを実行に移しはじめました。「新しい時代がすぐそこに来ている」と感じましたね。

オープンイノベーションの場をつくるために

下準備も数年かけて行いました。まずやったのは、プレーヤーとなるスタートアップ企業や、彼らを支援するベンチャーキャピタル(以下VC)が何を求めているかを知ることです。オープンイノベーションを実践している人たちとコミュニケーションを取りながら、何を大切にし、どういうふうに活動しているのか、必死に情報収集しました。その際に有効だったのがオフィス事業部独自のオウンドメディア「HIP tokyo」です。メディアの取材という名目で、多くのイノベーションのトップランナーにお話を伺い、その情報をもとに「オープンイノベーションの場を作るために森ビルができることは何か」も模索していきました。
 
動きを加速させてくれたのは、2014年から虎ノ門ヒルズで開催している日本最大級のスタートアップのマッチングイベント「イノベーションリーダーズサミット」です。このイベントをきっかけに、誰もが本格的な工作機器を使いアイデアをカタチにできる会員制工房「TechShop」のアークヒルズへの誘致や、日本を代表する独立系VCが集うワークプレイス「KaleidoWorks」の開業が続きます。
 
このようにたくさんの出会いを通じて、オープンイノベーションの基盤をつくっていきました。

虎ノ門で進む、街をあげた新しい挑戦

虎ノ門のイノベーション・エコシステムの拠点「ARCH」発進

2020年4月、虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー4階に、インキュベーションセンター「ARCH」が開業したのをご存知でしょうか。

ARCH内のコワーキングスペース。国内外の多様な産業分野のプレーヤーが集う。

「国際新都心・グローバルビジネスセンター」という虎ノ門ヒルズのコンセプトを踏まえ、私たちはこの3900㎡のスペースにどういう目的で、何の機能を持った施設を置くかという議論を2016年から続けていました。
 
これだけの大きな規模のものを一から作り上げるのであれば、単なる街の一施設ではなく、虎ノ門ヒルズの街づくりを象徴する場所になることを目指すべきです。そこで更に上位の概念として「イノベーション・エコシステム」を掲げたのです。
 
イノベーション・エコシステムとは、「行政、大学、研究機関、企業、金融機関などの様々なプレーヤー が相互に関与し、絶え間なくイノベーションが創出される、生態系システムのような環境・状態(文部科学省Webページ)」です。その代表として挙げられるのが、シリコンバレーの街。そこにはイノベーションを起こす起業家がいて、スタートアップ企業があり、それを資金や知識の提供で支えるVCがいて、人材を輩出するスタンフォード大学があります。
 
しかし当時の東京は、シリコンバレーに比べて起業家精神を持つプレーヤーが少なかったうえに、スタートアップを支援する仕組みもほとんど整備されていませんでした。一方、東京には他の都市では類を見ないほど、人材や資本など大きなリソースをもつ大企業が集中しています。そういった課題と特徴を踏まえると、世界にスケールしていけるような「東京らしいイノベーション・エコシステム」の構築が必要でした。
 
渋谷はITのスタートアップ、丸の内は大企業など、東京は街によって特色があり、集まる人も異なります。そこで虎ノ門の街を俯瞰してみると、日本の大企業はもちろん、外資系企業や、スタートアップも多い。しかもVCも多く集まっていて、霞ヶ関も徒歩5分くらいの距離にあるから行政とのやりとりもしやすい。非常に多様性に富み、フラットなコミュニケーションが取りやすいエリアだとわかりました。時代背景と立地特性をあわせて見ても、イノベーション・エコシステムの形成に虎ノ門は最適です。

虎ノ門で生み出される、共創のダイナミズム

HUBの集積、場と仕掛け、社会実装への取り組み、情報発信という4つの軸から、
虎ノ門エリアを進化させていく。

イノベーション・エコシステムでの森ビルの役割は、参加する企業が活動しやすい環境を整え、より取り組みが大きくなるように貢献していくことです。具体的には「ハブ」と呼んでいるイノベーションのキーパーソンたちのコラボレーションをリードすることです。第一線の人たちと会話しながら、エコシステム に必要なことを作っていくのは、ヴィジョンを共有しあい、様々なパートナーとそれぞれの力を発揮し、最大の成果を目指す再開発のプロセスと同じ。一方、黒子として動き続けるのではなく、その環境を活用しながら森ビル自身が変わっていくことも見せていきたい。そうすることで、この仕組みの素晴らしさをより伝えることができると思っています。
 
いくつかの企業は、すでに虎ノ門の街をオープンイノベーションの場とする仕掛け・事業を展開しています。
 
たとえば日本とシリコンバレーの2つの都市を拠点に活動するベンチャーキャピタル「WiL」は、ARCH開設準備から企画・運営までを共にするパートナーです。彼らは単にシリコンバレーのベンチャー企業への投資を行うだけではなく、大企業やスタートアップ、行政、アカデミアに所属する起業家を養成する取組みも行っています。自ら挑戦し、行動し続ける姿勢を「ThinkerからDoerへ」と表現し、Doerへの成長を後押しし続ける彼らからは私も多くを学びました。
 
「VentureCafeTokyo」は、2018年から毎週木曜日に行っている「Thursday Gathering」など、200回以上のイベントを虎ノ門ヒルズで開催。スタートアップのアウトプットの場をつくりながら、チャレンジする人の後押しをしています。さらにその人たちがロールモデルとなることで、裾野が広がり、スタートアップに興味を持つ人が増えていく。彼らのように色々なものを受け入れ、学び合いの中で成長していこうとする姿勢は、私にとっても刺激になっています。
 
また、2020年10月には日本最大のイノベーション拠点として、「CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター) Tokyo」が虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーに開業しました。海外から日本に来て事業展開するためのサポート体制やコミュニティの共有など、スタートアップに最適な執務環境が整っています。世界9都市に展開しているため、日本から海外へ、海外から日本への発信・進出のサポートも可能。スタッフの皆さんの利他的な働きにも共感しています。
 
海外のスタートアップ企業の日本進出をサポートする「アンカースター」も、虎ノ門の街にはかかせないプレイヤーです。森ビルから出向する社員がいるほど、彼らとはさまざまな角度からイノベーション・エコシステムの構築について議論を重ねています。
 
そして現在ーー。虎ノ門ヒルズエリアでマッチングしたプレイヤーたちによって、新しい事業が生み出され始めています。このようなダイナミックな動きが絶えず起き、広がっていく。これからも様々なパートナーとともに、そんな街に育てていけたらと思います。

未来を作り出す意思を持つ人を増やしたい

アフリカのことわざで「早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければみんなで行け」という言葉があります.。想像を超える未来にするために、オープンイノベーションの取り組みは必須だと感じました。

日本では「オープンイノベーションが必要」「推進したい」と思っても、勤めている会社の事情、理解者や仲間が集まらないといった理由から、なかなか前に進めないことも多いのではないでしょうか。私にもそういう瞬間がありましたが、そこで大切にしたのは「ワクワク」を心に持つことです。自分ひとりではできないことも誰かの助けで加速して大きくなれる「オープンイノベーション」が持つ可能性こそ、私がワクワクすることでした。だから壁にぶつかっても、「この街でオープンイノベーションを実現するために何が必要なのか」と、社内外の人たちと議論していくことができたのだと思います。「新しい時代がすぐそこに来ている」。最初にこう感じたときから随分と時は流れましたが、顧客の皆さまや様々なパートナーとの対話を通して、今でもワクワクし続けています。
 
一方で、日本の中でビジネスのチャンスを広げるための舞台は、まだまだ十分ではありません。ARCHは、大企業の新規事業部の皆さまに最適な環境を提供できる施設ですが、収容できるのは最大100社1000人までと、ほんのわずか。だからこそ、もっとより多くの人が「世の中を良くしたい」と思った時にサポートできるような、そんな環境をつくって広げていきたいです。

小さなことでも、目の前の問題を解決しようとしている人は
誰だって起業家だと言えると思うんです。

アメリカでは、起業家は多くの子どもたちの憧れの的です。それは、お金持ちになりたいという願望以上に「社会を変えようと行動する人こそかっこいい」と映っているからだと思うんですよね。「世の中を良くしていきたい」という想いが、1つでも多く実るような社会をめざして、ここ虎ノ門ヒルズから活動と発信を続けていきたいと思っています。

大林さんの「未来を創る必須アイテム」

「ホワイトボード」
ここに書いていくと、話している相手も何について話しているか整理しやすくなるし、思考のプロセスも残せます。


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