「環境にいい」をあたり前に。グリーンと共生する街づくり
未来へつながる持続可能な社会の実現に貢献するため、環境に配慮した街づくりを推進している森ビル。豊間友佳子さん(入社7年目)は、そんな森ビルの姿勢に共感して入社したひとりです。
豊間さんは現在、パークマネジメント推進部で「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を担当。「グリーン」と「ウェルネス」をキーワードに、2023年のオープンに向けてハードとソフトの両面から準備を進めています。
今回語られたのは、豊間さんが学生時代に触れたドイツ・ケルンの街や、森ビル入社後の「都市を創り、育む」取り組みについて。それらを通じて、これからの時代に求められる、街と人と自然の関係性が見えてきました。
ドイツ・ケルンでの原体験
私が大学に入学したのは、2011年の東日本大震災があった直後で、再生可能エネルギーに関心が高まっていた時期でした。私が環境問題全般に興味を持つようになったのは、そういった日常を揺るがす出来事に直面したことが大きかったと思います。
街なかで原発に対するデモの声を耳にするたびに、「理想を語るだけでは世の中を変えるのは難しい。仕組みを学び、何がベストかを考えないといけない」と思うようになって。その後、環境大国として先進各国を先導するドイツで学びたいと考え、短期語学留学を経てケルン大学で2013年から1年間、交換留学をしました。
日常に浸透する「環境配慮」
ケルンの街では、企業等による環境配慮が価値となり、消費者行動にも直結していることを目の当たりにしました。今でこそ、日本でも環境配慮が注目されていますが、10年前の時点で、こうした意識がライフスタイルの中にあたり前に取り込まれていることに衝撃を受けたのを覚えています。たとえば、ペットボトルや瓶のデポジットシステム導入などによって高リサイクル率が達成されていたり、スーパーでは多くの環境配慮商品が取り扱われていたり。自分の行動がどう社会に貢献するのか、一目でわかるようになっていました。「子どもたちの未来のために持続可能な社会を」など、明確な環境メッセージを示す企業広告も見かけることが多かったです。
また、「森の学校」と呼ばれる施設など、環境教育も充実しており、人々にとって環境配慮はナチュラルに身についているので、「自分はいいことをしている」という特別な意識もないように感じました。「環境配慮はあたり前」という感覚は、こういうことなのかなと思いました。
シビックプライドが育まれる街
ドイツは他のヨーロッパ諸国に比べ、寡黙で勤勉、個人主義な人が多いと言われているのですが、ケルンは少し異なり、オープンマインドな人が多いことで有名な都市です。市民の3割が外国からの移民であるという要因もあると思いますが、明らかに異国から来たとわかる私に対しても、地元の老夫婦が道を尋ねてきたり、「ねえ、大学って楽しい?」と子どもが何気なく声をかけてきたり、垣根を感じることのない会話が日常的にありました。それに、郷土愛もひときわ強い。“Kölner(ケルンの民)”として街のために自ら関わっていこうとする、シビックプライドが醸成されていました。
そのような街になった理由を、私はこう感じました。
まず街のハード面を見てみると、教会の周りに広場があり、各広場は歩行者天国で繋がっていて、さらに街の中心部には「グリーンベルト」と呼ばれる緑あふれる広い公園が配置され、人々が集いやすい「場」が備わっていることに気がつきます。そしてソフト面としては、カーニバルやワインフェス、クリスマスマーケットなど、街の人を巻き込み、その街の魅力を五感で楽しめる「イベント」が定期的に開催されていました。
そのようなハード・ソフトが充実した環境の中で、人々の開放的な人柄、そして “街柄”に惹かれてさらに様々な人々が集まり、交流し、個々の個性を尊重しながら、異なる価値観を享受しあう。街の一員としての喜びが、自分にとっての「居場所」に繋がり、シビックプライドが育まれていくのではと感じました。私自身も、たった1年という期間でありながら、街の虜になった一人です。
こうしたケルンでのさまざまな経験から、「人が街を変えていく」「街が人を変えていく」という両面があると考えるようになりました。
人と自然が共生する街へ
街づくりに関わる会社の中でも、「都市を創り、都市を育む」が理念である森ビルへの入社は必然だったと思います。
2018年にタウンマネジメント事業部に配属されて、最初の3年間は六本木ヒルズの運営担当に。春はJ-WAVEさんと共催の音楽イベント、夏は盆踊りやテナント企業・店舗と創る子供向けワークショップ、秋は屋上庭園での稲刈り、冬はクリスマスイルミネーションなど、数多くのイベント企画・運営を通して、街の賑わいづくりやブランディングに携わりました。
その中で、近隣にお住まいの方や働いている方が参加し、六本木ヒルズ内の花壇のお手入れをする「GREEN UP」の運営も担当していました。その参加者からは、「街を訪れるみなさんをお迎えするために、美しくしたい」と、街の花壇に対して自分の庭のような感覚と愛情を持ってくださっていて。街を運営する視点から、シビックプライドを育むことについても考えることができました。
また、テクノロジーとエンターテインメントが融合した体験型イベント「INNOVATION TOKYO 2018」では、街と人と自然の関係性について新たな可能性を感じました。Niantic,inc.さんとの共催で、「ARで変わる街の楽しみ方」をテーマに、六本木ヒルズの各所でARを活用した体験イベントを企画。そこで毛利庭園を“Pokémon GO AR庭園”に変化させ、ポケモンを出現させたのです。
開放型のイヤホンをつけ、探知機を持って毛利庭園を歩くと、植栽の間からカサカサとポケモンがいる音がして、もっと近づくと鳴き声も聞こえます。さらに、スマホを近づけるとポケモンを捕まえることができる。まるで本当にポケモンがすぐそこにいるようで、思わず緑をかき分けたくなるのです。
自然と音声AR技術を掛け合わせることで、日常の風景の見え方も変わっていく。テクノロジーを上手に活用することで、「触れあう」にとどまらない、自然と人と都市の新しい関わり方を生み出せると実感できた企画でした。
また、こうした自然を舞台にした企画に携わる中で、緑に対して大きな可能性を感じました。それは、国籍、年齢、職業などの垣根を超え、さまざまなバックグラウンドを持った人が気軽に交われるフィールドであること。誰にでも開かれた空間であり、五感が刺激される環境だからこそ、普段かかわることのない人同士が、緑を介してコミュニケーションをとることができると感じました。
2つの「グリーン」の実現に向けて
私は今、2023年に竣工予定の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の企画に、運営目線で携わっています。街づくりのコンセプト「Modern Urban Village」を支えるのは、「グリーン」と「ウェルネス」という2つの軸。自然と調和した環境に多様な人々が集い、人間らしく生きられるコミュニティを育むことを目指しています。そのために、街の植栽計画や管理運営、緑の活用方法を検討したり、街全体で資源循環を実装するための実証実験をしたり、この街ならではのイベント企画をしたり。竣工の先にある街の運営を想像し、模索しながらハードの企画に反映させ、最終的な姿に落とし込んでいきます。
その中で私は、2つの意味での「グリーン」に取り組んでいます。
1つは、環境に良いサステナブルな街。
この街で過ごす人々が自然と環境配慮に貢献できる仕組みをつくることです。たとえばお買い物やイベント等で街に訪れた際、大量のフードロスが発生したり、大量の使い捨てプラスチックが使用されたりしていては、街のコンセプトに合わないように感じます。真に「心地よい」と感じるためにも、試行錯誤を重ねながら3R(リデュース、リユース、リサイクル)を街で推進したい。この街で過ごすことそのものが「環境に良い」に繋がるような、“ゼロウェイスト(※)な街”の仕組みづくりをしていきたいと思います。
※「無駄、浪費、ごみをなくす」という意味で、できるだけ廃棄物を減らそうとすること
もう1つは、都市に居ながら日常的に緑に触れられる街。
街の中心には約6,000㎡の広場が据えられ、全体としては2.4haの緑地があり、自然溢れるランドスケープが計画されています。
その中で街には、働く人や住む人、インターナショナルスクールの多国籍の生徒・先生、ホテル宿泊者、来街者、清掃や警備などの街のスタッフ、近隣の方々など、様々なバックグラウンドを持った人であふれます。緑豊かなフィールドを活かしながら、街に関わる人々を繋ぐ仕組みづくりをすることで、人々が緑をきっかけとして街への愛着を育んでいけるようにしたいと思います。
こうして都市と自然の共生を考えながら街づくりに取り組んでいると、人と自然は互いに生かしあっているのだと身にしみて感じます。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を通じて叶えたい夢は、世界の都市のスタンダードをつくること。行けば刺激になることはもちろん、グリーンと共生する生き方があたり前に感じられる街をつくるため、これからも一歩ずつ取り組んでいきたいですね。