8.1haの未来の都市を「いい感情」で満たすために
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8.1haの未来の都市を「いい感情」で満たすために

街を歩くと、直観的に「いいな」と思うことがある。自然と都市が共存する新鮮な空気の匂い、遠くから聞こえる程よい喧噪、そわそわと会話を楽しむ着飾った大人たち。その空間に対するあらゆる感覚が重なって、私たちは「いいな」という感情を持つ。

森ビルがつくり、育む都市のスケールは大きい。多様な人の「いいな」を許容するための余白をつくることは、想像以上に難しい。だからこそ松本満美子さんは、自分の直感や感情を大切にしているという。

人に「いい感情」を与えるような空間は、どうしたらつくれるだろうか。この終わりのない問いへの、挑戦の物語を聞いた。

空間が感情をつくるんだ

角が四角い部屋と、角が丸い部屋。2つの空間で育った2人の子供は、違った感性を持つ大人に育つと思うんです。環境は、そこで暮らす人に小さく長く、結果的に大きな影響を及ぼすはず。

例えば凶悪な犯罪を起こしてしまった人が過ごしていた空間って、どんなものなんだろう。悲しい事件のニュースを見て、考え込んでしまうことがありました。光が差し込む気持ちの良い場所のイメージは浮かばない。映画の見すぎかもしれないけれど、そこが暗いどんよりした部屋だとしたら、人は何を考えどんな行動をとるようになるんだろう。

もちろん空間は、人に良い影響も与えます。子供の頃、音楽好きな両親とよくサントリーホールに行っていました。ホールの前のカラヤン広場という空間に、なぜか心惹かれていた。大通りから階段をのぼると一気に視界が開け、そのさらに奥にサントリーホールの明かりが灯っている。華やかな世界がぱっと私を迎え入れる。コンサートの前のワクワクする時間を、あの空間がつくりだしている。

コンサートが終わりホワイエを出ると、フレッシュな空気の匂いがする。広場では着飾った人たちがコートを着て、余韻に浸って立ち話したりしている。レストランでご飯食べている人もちらほらと見える。階段をおりていくと、街の音が少しずつ近づいてきて、日常にスイッチが切り替わる。

カラヤン広場は都市の日常と非日常の間に、余白を作っているようで、私にはそれがとても心地よく感じられた。このときの感覚は今でも心に残っている。環境や空間が人の感情に大きく影響を及ぼすんだな、という思考の原体験だったのかもしれません。

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直感で東京からバングラデシュへ

私はあるゆる選択を直感で決めてきました。大学では迷いなく建築を学び、就職では森ビルを選んだ。入社してからしばらくは内装デザインの仕事を担当していました。

その中で、何かを創り出すという行為には、その創り手の本質が滲み出るものなのだと強く感じていました。だからこそ、表面的なスキルや情報を追うのではなく、ディープで幅の広い経験を積んだ奥行のある人になりたいと思ったんです。

入社して数年後、休職をし、兼ねてからチャレンジをしたかったアメリカへの留学を決めました。が、ふと何か違うような気がして、再度調査するうち、国際協力の一環でバングラディシュ政府の建築局で働くポストを見つけました。

あ!バングラデシュといえば国会議事堂!!大学に入学したての頃、教授が世界の名建築をスライドで見せてくれた事を急に思い出しました。水に浮かぶ建物や光と影が印象的なホール、あれは見ておきたい。感じておきたい。

結局、締切の2日前に応募して、行き先を変えました。バングラディシュの環境は、私をどんな気持ちにしてくれるんだろう。

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生きることの本質に近い場所で、揺るぎのない「いい感情」に出会う

バングラディッシュで待っていたのは、日が昇ったら起きて、日が沈んだら寝る生活。と思いきや、意外に首都ダッカにはビルが建ち並び景色は近代化していて驚きました。

私が住んだのは、色々な人やものがごった返す、活気あふれるオールドダッカという土地。皆さんが想像する「発展途上国」らしいイメージの場所といえばいいでしょうか。

夜明け前に近所のモスクから爆音で流れるアザーンに叩き起こされ、リキシャという乗り物に載ってオフィスに向かう。昼は40℃超えなのに一日の半分は停電していて、扇風機も回らない。干からびそう。10円くらいでランチを食べて、甘いお茶を飲む。家に帰ると水を浴びて体温を下げ、蝋燭の明かりで自家製のお酒をちびちび飲んで蚊帳に入って眠る。月の生活費は200ドル...。

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実は、私はこの生活に結構幸せを感じていました。

市場でぼったくられて怒っていると「お金を持っている人が多く払うのは当たり前だ」と言われる。確かに…。
野菜市場の色の変化を見ていると、日本の文化だと思っていた二十四節季を思い出した。なるほど…。

アメリカ人の建築家とド田舎でプロジェクトをやった時の言葉がとても印象的でした。「ぼくはベジタリアンだけど、ここでは肉を食べる事にした。”鶏肉工場”でずらーっと並んで育った鶏とは全くの別物だ。ここで元気に走り回っている鶏は自然の一部だ。それを食べる事は自分がその連鎖の一部になる為に必要な事だとすら感じる。久々に肉を食べたけど、悪くない気分だ。」と。

食べる事ひとつとっても、市場で、田舎で、”常識”がボロボロと崩れていき、実はこっちの方が原始的で気持ちが良い事に気が付く。こういう事が毎日、山のように起きて、ジワジワと私を”壊して”くれました。

命の事も良く考えました。近所に路上生活家族がいて、2年の間に子供が一人生まれて、上の子供たちも成長した。いつもお金をもらいに来るので養っていると錯覚しそうだったし、お腹の大きいお母さんの姿が見えないと心配もした。道端で子供を作り、道端で子供を産んだ。すごい。人間は強い。命とは、生きるとは、幸せとは何か、人間って何だ? とか、本当に良く考えました。

10年も経って未だに消化できていない所はありますが、少なくとも人間としてのキャパシティは広がったと思うし、何か揺るがない、幸せの定義みたいなものが出来たと思います。私の人生に必要な、本当に貴重な2年間で、このチャレンジを認めてくれた会社や諸先輩方にも心から感謝しています。

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たくさんの「いい感情」をつくるために、都市全体をディレクションする

東京に戻って逆カルチャーショックの違和感に戸惑う日々を暫く過ごした後、都市開発本部の計画推進部という新設部署に異動になりました。開発プロジェクト全体を俯瞰し、全体計画をディレクション、推進する部署です。様々な要素が複雑に絡み合うプロジェクトのなかで、本質的な課題を見出し、解決していく必要がありました。

それまでとは違った種類の仕事に初めは困惑しましたが、次第に自分に向いている部分にも気が付き始めた。既成概念を取っ払い、1人の人間として、私がその街にどんな感情を抱くだろうかと、想像しながら取り組む事に意味を感じたんです。

2023年に竣工する、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」。模型を見ながら、私はミニチュアの街を歩き回り、何が起きるかを想像します。多様な人が行き交う開放的な中央広場。緑と光が美しいオフィスエントランス。果樹やハーブの香りが漂うレストラン。東京を一望するレジデンス。人は何をして、何を考え、どんなふうにこの街を歩くんだろう。直感的に想像すると、そこにある違和感に気付き、あるべき姿が見えてくるような気がします。

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森ビルの都市づくりには、たくさんの協力者と、たくさんの社員が関わっています。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」にも、何百人もの社員が、1つのまだ見ぬ未来の街をつくるために、日々創意工夫を凝らしている。1つのプロジェクトに投入する人数としては、異例ともいえる。

開発、設計、管理、オフィス、住宅、商業など、それぞれの分野の専門家が練り上げた最高のプランの、最後の全体調整が私たちの仕事です。都市を創り、都市を育むというビジョンのもと、一気通貫の都市づくりを実践する森ビルだからこそ必要な仕事なんです。

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街全体から、次のプロジェクトに必要な施設やサービスを考える

現在は新領域企画部という部署で、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」などの文化施設を計画する仕事に携わっています。アートやテクノロジーなど、様々な領域のプロフェッショナルが集う部署で、私は街全体を俯瞰する視点を提供する役割があると思っています。

今の時代、ただ施設という箱を作るだけではなく、その上にどんなサービスを乗せるかということも重要になっていますよね。街全体を考えてきた私だからこそ、直感や感情に従って素直に生きてきた私だからこそ、本質的に必要な施設やサービスを考えることが出来るかもしれない。これもまた直感ですが、楽しい挑戦になる気がしています。

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8.1haの未来の街が、多くの人の「いい感情」で溢れるように。私は私の「いい感情」を探して、今日も街を歩きます。

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松本 満美子|Mamiko Matsumoto
2005年入社。内装部、休職(バングラディシュにて国際協力に関わる)を経て、都市開発本部計画推進部にて虎ノ門・麻布台プロジェクトの全体ディレクションに携わる。現在は新領域企画部にて虎ノ門・麻布台プロジェクトなどの文化施設を計画している。

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