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物事が前進する対話とは?都市開発のベテランが大切にする仕事の流儀

これまで「アークヒルズ」「六本木ヒルズ」「虎ノ門ヒルズ」と、数々の都市開発をおこない、都市を育んできた森ビル。2023年には「ヒルズの未来形」である「虎ノ門・麻布台プロジェクト」が誕生します。

そんな都市開発を実現させるために欠かせないのが、権利者の方々との長期にわたる対話です。そこで必要なマインドセットや大切にすべき視点はどのようなものなのでしょうか?

今回登場するのは「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の開発の要となる部署に所属し、14年にわたって権利者の方々との対話を行ってきた高池義方さん。この仕事にかける想いを伺います。

高池 義方|Yoshimasa Takaike
2000年森ビル入社。入社当初は設計部に所属し、設計および工事監理に従事。その後2006年に開発事業部へ異動。2008年より「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の開発に携わる。およそ14年間、権利者の方々と密にコミュニケーションを取りながら交渉を続け、現在もプロジェクトを推進している。

開発は究極の営業

私が担当している「虎ノ門・麻布台プロジェクト」がはじまったのはかれこれ30年以上前。昭和の終わり頃から活動を始め、平成元年には地元組織「街づくり協議会」が発足し、本格的な再開発事業がスタートしました。その後、バブル崩壊など、大きな社会変化に揉まれながらも少しずつプロジェクトを進め、令和元年、ついに着工。2023年の竣工が予定されています。

2023年竣工予定の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の前で。

私自身がこのプロジェクトに関わり始めたのは、2008年。今から14年前のことです。入社してしばらくは設計部に所属していましたが、キャリアも長くなりつつある頃、開発事業部への異動の辞令が出されました。その時は青天の霹靂という感じでしたね(笑)。しかし「ディベロッパーに入ったからにはいつか開発の仕事を」という思いもあったので、異動は嬉しくもありました。

開発事業部は多い時で1つのプロジェクトに20人以上のメンバーがいて、その全員が権利者の方々を担当しています。基本ペアで担当しますが、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の権利者は約300人いるので、1人あたりの担当は平均20〜30人くらい。日々色々な考えの方々と接しています。

開発の仕事って、いわば「究極の営業」だと思うんです。私たちはそこで再開発を進めたいので、「営業したけどダメでした」と引き下がることはできません。

つまり、「私たちがつくった商品を買いませんか?」ではなく、「あなたの土地を使って、一緒に再開発をしませんか?」という営業。しかも相手は今の生活に全く困っていない場合もある訳で。だからこそ、権利者の方と真摯に向き合い、そして時には隣で寄り添いながら少しずつ関係を構築し、再開発に同意してもらう必要があります。

もちろん最初は、「自分にできるのだろうか……」という不安もありました。でも、これ以上の挑戦はないと考えるとおもしろく、やりがいのある仕事だと感じました。

実際に権利者の方々と接していると、考え方や価値観が本当に人それぞれなんです。かっこいいCGで営業資料をつくったからといって、再開発に賛同してくれる人はほとんどいません。反対している方はなぜ反対しているのか、悩んでいる方はどういうことに困っているのか、一人ひとりと向き合い、深いところまで語り合える関係になることが、非常に重要だと思うようになりました。

交渉で大切なのは、相手のことを想う想像力

私はこの14年間、個人の権利者だけでなく法人の権利者も多く担当してきました。法人と言っても大企業だけでなく中小企業や宗教法人まで、意思決定のプロセスやかかる時間の長さなど本当に様々です。また個人権利者の多くはこの地で生活しているため、再開発による私生活への影響も非常に大きい。先ほども言ったように、開発の仕事は、相手が「いいよ」と言ってくれない限り絶対に進みませんから、苦労した思い出は多々あります。

その中で、今もふと思い出すのは、とある小さなビルのオーナーの方です。その方は再開発に反対されていたこともあり、私が何度訪ねても10cmくらいしか玄関の扉を開けてくれなかったんです。これは決してオーバーに言っているのではなく、本当に(笑)。足繁く通っていましたが、いつも「ああ、お前か」という感じで、なかなか心を開いてくれませんでした。

そんなある日、その方のビルの窓ガラスが、いたずらで割られてしまったんです。犯人がものを投げ入れたのは、隣接する森ビルが所有するビルからのようでした。

権利者の方から連絡を受け、私はすぐに菓子折りを持ってその方の元へ駆けつけました。そしてまずはうちのビルから物が投げられたことを謝罪し、すぐに窓ガラス交換の手配もしました。この件は客観的に考えれば「森ビルに非はない」とも言えます。しかしこの状況下でそれを主張しても何も生まれません。自分のビルを傷付けられたオーナーの方の気持ちを考えれば、何をすべきか答えは明確。

このときの対応が功を奏したのでしょうか。その後少しずつ玄関の扉が開くようになっていったんです。やがて玄関の土間で話せるようになり、次にはダイニングまで通されるようになり、数年後にはお茶まで出していただけるようになりました。ゆっくり話ができるようになってからは、訪問するたびに、大半は趣味の競馬の話をして、最後の数分だけ再開発の話をする。その繰り返しでした。

その方は最終的に、早い段階で近所のマンションに引っ越されたのですが、新居にも招待していただいて。今思えば、ピンチに躊躇することなく対応したからこそ信頼を得られ、チャンスに変えることができたのだと思います。

「気が利く」とは、想像力だと思います。相手のことを真剣に考え、知って、想像して、伝え方を考えて、実行してみる。その繰り返しが大切だと思います。自分が伝えたことを相手はどう感じたのか、心をこちらに向けてくれてはじめて本当の意味で「伝わった」と言える。

つまり、重要なのは「伝える」ことではなく、「伝わる」ということなんです。

小さな積み重ねが大きな成果につながる

今、「大きな成果を出したい」という思いで仕事に取り組んでいる方も多いでしょう。一方で、「どんな仕事もいきなり大きな成果を出せるのか?」と問われれば、当然そんなことはありません。

仕事をする上で、ある事柄が上手く進むか否かは「8割は準備で決まる」と私は思っています。ストーリーを組み立てたり、ものごとを多角的に見るようにしてみたり。そうすることで、どんな方向から指摘を受けても、的確な返しがしやすくなる。当然相手があることですから、上手くいかないこともあるけど、「自分の努力でどうにかなる部分は、全力を尽くす」という小さいことの積み重ねが大切なんです。

このような「凡事徹底」こそが、途方もなく大きな成果に辿り着くための、たったひとつの道なんじゃないかなぁ、と。

開発の仕事はプレッシャーが大きいし、上手くいかないことも多いです。私自身「なんのためにやっているんだろう」と思い悩むこともありました。でも、逃げていては何も始まりません。誰かがやらなければいけない仕事だからこそ、その責務を全うしようという思いで続けてきました。そういった中で経験してきたすべてが、今では自分の血となり肉となり、財産になっていると感じます。

これまでに関わってきた権利者の方々は、別の地に引っ越した方もいれば、再開発後に戻って来られる方もいらっしゃいます。そのすべての方々に、「住んでいた街がすてきになって嬉しい」「高池と一緒にやってよかった」そんな風に思ってもらえる街になったら、なによりですね。

虎ノ門・麻布台プロジェクトのこれから

これまでのプロジェクトと同様に、「虎ノ門・麻布台プロジェクト」で誕生する街も「行ってみたい」「また行きたい」「あそこじゃないと経験できない」とみなさんに思ってもらえる街でありたいし、そういう場所に育てていきたい。

時間が経てば寂れてしまうものではなく、圧倒的なクオリティをキープしながら、常に新しい話題を提供し続けていく。そのマインドをしっかり持ち続けていれば、何十年経っても活きた街であり続けるはずです。

やっぱり街づくりって、面白いんですよ。開発部門は森ビルの中で最もトラディショナルでオーセンティックな部署だと思います。決して「華やか」ではないけれど、森ビルが森ビルらしくあり続けるために絶対に無くしてはいけない軸です。開発を進めるため、時には商売上の問題や相続問題など、通常なら入り込まない部分まで入って、解決の手助けもします。そこから厚い人間関係を築き上げることもあるでしょう。だからこそ、他にはないやりがいにつながるはず。

「都市を創る」
それは決してキラキラしたことだけではありません。

開発だけでは無いけれど、仕事をしていれば泥臭いことも沢山ある。その「道のり」をしっかり理解出来ているかどうか。これは、どの部署にいても、森ビルという会社で街づくりをするうえで、非常に大切な要素だと思います。

これからも、都市再生を通じて社会に貢献し続けていきたいですし、若手にも、もっとこの仕事に興味を持ってもらえるよう、発信していきたいですね。

高池さんの「未来を創る必須アイテム」

「プロジェクト地内にあった建物で使われていた石のかけら」
デスクでペーパーウェイトとして利用しており、見るたびに従前の姿を思い出しながら、温故知新の大切さを再認識しています。

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