本気で打ち込んできた音楽は、街づくりとどう重なるのか。模索を続ける5年目社員の気づき
学生時代、本気で打ち込んできたことはありますか?それは今の仕事に、どのように活かされていますか?
クリスマスのイルミネーションや、夏休みの子供向けワークショップにお正月飾り。街の風物詩的イベント、そして再開発後の自治会運営など、タウンマネジメント事業に携わる石岡和樹さんは、学生時代に音楽に打ち込み、有名音楽フェスにも出演した経験を持つ人物です。
その濃厚な経験は、会社員として働く今、どのような形で石岡さんに働きかけているのでしょうか?
好きなものが、価値観の土台をつくってくれた
音楽に興味を持ったのは、小学3年生の頃でした。当時流行していたインターネットのフラッシュ動画でBUMP OF CHICKENの『K』という曲に出会い、その歌詞に衝撃を受けたんです。何かが違えば恥ずかしくも感じられてしまいそうな物語性のある歌詞を、かっこいい声で説得力をもって堂々と歌っている。どうせ恋愛を歌うものばかりだろうと、音楽にあまり興味がなかったのですが、世の中にこんな表現方法があるんだと一気に興味が沸きました。憧れるだけでは時間がもったいないとギターを始め、間を置かず同級生とコピーバンドも結成しました。
地元の浜松市は、日本の三大楽器メーカーが本社を置き「楽器の街」として知られる地域。バンドを組んでいる人もたくさんいました。世代交流も活発で、僕も仲良くなった20歳年上のおじさんにギターを教えてもらっていました。「好きな音楽」を共通言語とした、世代を超えた交流があり、絶えずコミュニティが続いていく。街づくりに関わるようになった今振り返ると、地元にああいうコミュニティが存在していたことは結構すごいことだったんだなと思います。
高校生になり、定員2~300人程のライブハウスを満杯にできるようになった頃、作詞と作曲を始めました。1990年代~2000年代の、自分が影響を受けてきた大好きな曲を自分なりに再解釈して今の世代に響く新しいものを生み出してみたい。自分が小学生の頃『K』を聴いて衝撃を受けたときのように、誰かの好きなものができるきっかけをつくりたい。そしてこの頃から、プロを目指すようになりました。大学入学と同時に上京し、都内の様々なライブハウスで演奏して。コネクションをつくる為に自分から関係者に話しかける中で、人の話を否定することなく聞いて、そのイベントの裏にある背景を知って理解するというプロセスが踏めるようにもなりました。
好きなものが出来ると、それが価値観の土台になる、と思います。「これが好きだ」というエネルギーは、人を新しい世界に飛び込ませてくれ、色々な経験を与えてくれる。音楽やゲーム、本や映画、そこから学んだことや人との出会いが、僕の考え方や道徳観、骨組みを育ててくれた気がします。
背景の理解。それが新たなストーリーを生み出すことにつながる
音楽活動を真剣に続けていった結果、努力が実り、ROCK IN JAPAN FESTIVALへの出場も叶い、それがきっかけで事務所と契約をすることもできました。プロとして活動するチャンスを掴むことができたんです。でも実は、そこからが大変で。自分達だけでやっていた頃の方がむしろ手応えがあったと思うくらい、様々なトラブルが重なり思うように活動できなくなってしまいました。
そんな状況だったこともあり、一度就職活動をしてみようと。そこで森ビルを知りました。当時は六本木自体ほとんど行ったことがなく、ギラギラした街というイメージがあるだけでした。でも、街づくりの考え方やビジョンを叶えるまでの地道な過程を知って、「すごい会社だな」と興味が沸いたんです。例えば「文化都心」を実現するために、六本木ヒルズの最上階に美術館を置く。採算よりもコンセプトを大事にする。そこまでやる企業はなかなかいないのでは、と驚きました。都市開発という全く知らなかった世界だけど、そのプロセスにはすごく共感できるし、そういう背景を持つ会社で働いてみることで、何か新しい視点を見つけられそうだなと思ったんです。だから、会社員と音楽活動を両立してみようと決めて、社会人生活がスタートしました。
現在所属するタウンマネジメント事業部は、街のイベントを企画したり、地域の自治会活動やコミュニティ形成を担う部隊ですが、「イベントの裏にある背景・ストーリーを知って理解する」という音楽活動での経験が活かせると感じるシーンが多々あります。たとえばイベントを企画するときに、なぜそういう方向性なのか、街のコンセプトをどう捉えてどう表現するのか。
J-WAVEと六本木ヒルズが共催で開催する、TOKYO M.A.P.Sというフリーライブがあります。15年以上続いているイベントですが、毎年異なるテーマを掲げ、オーガナイザーを選出し、出演者が決まっていく。そのテーマの中に、音楽的なことだけでなく、街に根差した視点、メッセージやコンセプトが存在していて、それは六本木ヒルズらしいなと感じます。長年同じ街でご一緒しているからこそ、J-WAVEさんもその視点をとても大切にしてくれているし、だからこそ街の人々に長く愛される音楽イベントになっているのだと。
昨年は六本木ヒルズが誕生して20年だったこともあり、30年以上J-WAVEの番組を持ち、誰よりも六本木の街と音楽の変遷を見てきた方として、クリス・ペプラーさんがオーガナイザーに選ばれました。六本木ヒルズのデザインから着想を得た「新しさと心地よさ」というテーマが掲げられ、出演者をはじめとして、本当に街に根差した視点の音楽イベントだったと思います。
地域を舞台にした音楽イベントは他にもありますが、街を1つの起点として音楽イベントのストーリーを考え、そのストーリーを体現するためにどういう人に出演してもらうか、ここまでプロセスをしっかり踏んでいるイベントは、他にはないなと思います。かつてはこういった音楽イベントに出演することを目指していた訳ですが、主催者側に立ってその裏側を知ることで、街としてその舞台をつくる側の面白さも感じるようになりました。
タウンマネジメントも、誰かの「価値観の土台」となるはず
タウンマネジメント事業部での仕事は今年で3年目。経験も重ねてきた中で、何か新しいことを実現するためにもっと頑張るべきだな、と思います。ヒルズが大事に育んできたものを崩さずに、どんな新鮮さを加えられるのか。簡単に見つかるものではないけれど、音楽をやっていた時の「好きな時代の音楽を再解釈して、新しい曲をつくっていく」という姿勢は、街づくりにも通じるところがあるなと感じていて。街が歩んできた歴史を大事にしながら、新しさを生み出していくこと。単純に、目新しいものをやればいいということではなく、六本木ヒルズの「文化都心」というコンセプトを自分たちなりに解釈して形にしたら、何が出来るのか。タウンマネジメント事業部の一員として、もっともっと考えて、形にしていかなくてはと思います。
僕が音楽と出会ったのはインターネットの中の世界でしたが、リアルな街はその何倍も「好き」との出会いで溢れています。ライブで出会う音楽や、広場の花や緑。1つのイベントが、人生を揺るがすきっかけにだってなるかもしれない。その仕掛けをつくるタウンマネジメントの仕事は、誰かにとっての価値観の土台の土壌をつくることもあるかもしれないと思っています。
自治会の方々と直接向き合うなかでも、「この街が好きだ」という想いから生まれた、価値観の土台が皆さんの中に確かにあることを感じるんです。育ってきたこの街が好きで、六本木ヒルズが出来て、そこでこんなことに出会って、だから今の自分は、こういう自分になった、と。そこにある深い背景を読み取り、解釈していくことで、六本木ヒルズが体現してきた文化都心というあり方も、もっと様々な表現が出来るかもしれない。
これまでの経験は、街づくりを考える確かなヒントになっていると感じています。