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ウェルビーイングな働き方が企業を後押しする。「ヒルズハウス 麻布台」が目指すもの

社会環境や経済情勢、時代の要請に応じて、ゆるやかに形を変える「オフィス」や「ワークスペース」。働き方そのものが議論されるようになって久しく、コロナ禍を経て、企業や個人の選択はますます多様化しています。
 
2023年11月、麻布台ヒルズ内に誕生した「ヒルズハウス」。どこでも働けるリモートワークが一般的になった今、街全体をワークスペースと捉えて働く、その拠点となる場所です。

プロジェクトを推進した稲原攝雄さんは、キャリアの多くの時間、オフィスの理想的な姿を模索し続けてきました。しかしこの場所の目的はオフィスの変革ではなく「働き方」の定義を変えることだといいます。

稲原攝雄|Setsuo Inahara
2004年森ビル新卒入社。大学、大学院では建築を学び、入社後はビル管理、設計部での改修工事を担当。2010年より、営業本部オフィス事業部の営業推進チームへ。オフィスのスペックやエントランスといったハード面の企画に始まり、ソフト面のサービス企画、デジタル活用に至るまで、オフィスにまつわる商品や企画に全方位から携わってきた。外資系企業の経営者やファシリティ責任者と接する中で、オフィスニーズのトレンドが、効率性に寄与するスペックから従業員のウェルネスへ変化していることを感じ、10年以上にわたり従業員にとって真に理想のオフィスは何かを探求し続けている。


麻布台だから出来る働き方

私が森ビルに入社したのは2004年。六本木ヒルズが開業した翌年でした。2010年にオフィス事業部に異動してからは、一貫してよりよいワークスペースの在り方を考え続けてきました。当時のオフィスマーケットは、2010年代中頃からリーマンショックによる停滞期を抜け、業績向上、業容拡大、そして人員増加により、オフィス需要が高まりを見せ始めていた頃。増床を望む企業から求められるのは「どれだけ沢山のデスクを効率的に詰め込めるか」。効率的な島方配置のレイアウトにできるだけ席数を詰め込み、皆が並んで働くのが主流の時代でした。

同じ頃、社内では、虎ノ門ヒルズや麻布台ヒルズプロジェクトの具現化に向け、オフィスの企画検討が本格化していました。

オフィス街として成長してきた虎ノ門は、老舗の有力企業や士業の事務所も多く、信頼感のあるオフィスエリアとして十分な力と存在感がありました。環状二号線の開通により羽田空港へのアクセスもよく、霞ヶ関の官公庁にも近い。そんな強みを活かし、グローバルなビジネスセンターを形成していこう。虎ノ門ヒルズのイメージはすっと固まっていったのですが、閑静な住宅街であった麻布台は、一からコンセプトを組み立てる必要がありました。

当時、世の中では「働き方改革」の議論が盛んになっていました。効率性を重視し、長時間労働をなくすこと。それはある部分賛同するものの、私はどこか違和感ももっていました。例えば、これまでにないものを生み出そうとする 「生みの苦しみ」のタイミングでぐっとかかる時間や負荷。たくさん考えて、みなでああでもないこうでもないと議論して、一歩戻ってはまた進む。その繰り返しの中でアイデアが肉付けされ、筋力が付き、ゆるがない形になっていく。生産性とは、ただ物事を効率的に進めることではなく、投下したエネルギーや時間に対してアウトプットを大きくすることじゃないだろうか。

「働き方」を定義し直したいという問題意識が、私の中で強くなっていました。

麻布台という場所は、これまで一般にイメージされていたような、いわゆるオフィス立地とは言い難い場所です。駅からは距離があり、拠点を構える企業の数も少なくビジネスの匂いがしない。

一方で、閑静な住宅街として古くから歴史をもつこのエリアの樹々は、成熟し瑞々しい空気を放っています。大使館や会員制クラブといった由緒ある建物が建ち並ぶ道々を歩いていると、街の歴史と、そして自分とも対話している気持ちになります。

働くイメージがないのであれば、逆にこの場所で新しい働き方をつくりだせばいい。これまでのオフィスの評価軸にとらわれず、豊かな環境を活かして働く一人一人の心身に寄り添い、それでいて生産性を後押しできるような、「これからの働き方」をつくってみたい。
 
そうして2023年11月、麻布台ヒルズ開業と共に、「ヒルズハウス」が誕生しました。

街全体をつかって働く

ヒルズハウスのコンセプトは 「自由で創造的な働き方の実現をサポートする」こと。 ワーカー個人の働く環境や一日の質を豊かにしながら、企業のパフォーマンスを上げることを目指しています。

コロナ禍は、働き方の議論を10年先に推し進めたといわれています。ABW(ActivityBasedWorking:時々の仕事内容に合わせて、働く場所や環境を自由に選択する働き方)といった考え方も、一般化するのはもう少し先かと思っていたものが一気に普及し始めています。

ヒルズハウスは、企業単位で契約を結び、その企業のワーカーはいつでも施設やサービスを使える、という仕組み(※)にしました。企業がヒルズハウスの契約をしたことを通じて「ウェルネスな働き方を提供する」というメッセージが伝われば、ワーカーは気兼ねなく利用できますし、企業へのエンゲージメント向上にも繋がると考えています。

社員食堂の代わりとなるカフェテリアや眺望の良いワークラウンジやコミュニケーションスペース、コンディションを整えるマッサージルーム。企業ごとに整備するのは難しくても、このプログラムを活用すれば、それらのアメニティを共有できる。ワーカーのウェルネスを、街がサポートできる。ヒルズハウスは、その拠点となる場所なんです。

もう一つ、私たちが実現したかったのは、ヒルズハウスという場所を越え「街全体をワークスペースとする」ことです。

海外では「コーポレートキャンパス」と呼ばれるオフィスを設ける企業が多くあります。アメリカのビッグテックに代表されるように、西海岸の巨大な敷地に設けられるのは、仕事の作業スペースだけでなく、スポーツ施設やカフェテリア、ヘルスケア施設に自然豊かな庭。広大な敷地間の移動の為に、無料のシャトルバスが走るんです。働く環境や従業員同士のコミュニケーションが仕事のパフォーマンスを上げるという考え方を前提に、つまり一つの大きな「街」をつくっているんですよね。

なるほど、と頷きました。と同時に「それってヒルズじゃん」と思いました。オフィスを一歩出れば麻布台ヒルズという街が広がり、そこにはアート施設やクリニック、多種多様なショップに、大きな広場もあります。街に散りばめられた要素をシームレスに使える仕組みをつくれば、日本でもコーポレートキャンパスを実現できるかもしれないと考えたんです。

一方、そんな風に街を使い倒してもらうには、街とワーカーをつなげる仕組みが必要です。そこで「ワーカーサポートプログラム」という、企業が従業員への福利厚生として街の機能を活用できるチケットを付与する仕組みも立ち上げました。これは、企業がその従業員に対して福利厚生として街の機能を活用できるチケットを付与できる仕組みです。特に外資系企業などは、異国で従業員が暮らしやすくなるためのプログラムを、外国人の担当者が一から作るのは至難の業です。日本企業でも、森ビルが一括してプログラムの内容をご提案し、企業が従業員一人一人に対して必要なベネフィットを提供できるシステムは好評をいただいています。現在はヒルズ内の様々な施設をシームレスに「使い倒す」ものですが、ゆくゆくは趣味を通じたコミュニティ等をつくったり、もっともっと街を「楽しみ尽くせる」仕組みに充実させたいと考えています。

「ワーカーサポートプログラム」の利用イメージ。ヒルズネットワークの仕掛けを活用したこのサービスでは、入居企業が、ヒルズハウスやレストランなどをはじめとする街全体の機能をシェアし、あたかも自社の施設のように使用できる。

※麻布台ヒルズに入居する企業は、企業単位の契約により、従業員がヒルズハウス及びワーカーサポートプログラムの利用が可能になる。

『働き方』の認識を変えていく

ヒルズハウスの歩みはまだ始まったばかり。次のステップでは、個人と個人が繋がったり、そこから新しいものが生まれるような仕掛けづくりも進めたいと考えています。

「働く」「作業する」だけであれば、自宅でも出来ることがコロナ禍によって分かりました。であるのに今オフィスに人が戻ってきているのは、それだけがワークスペースの役割じゃないという実感があったからだと思います。だとすれば、「そうじゃないオフィスの使い方」を広げていきたい。これまで定義されてきた「働き方」だけじゃない、『働き方』をつくりたい。インプットしたり、アウトプットしたり、コミュニケーションしたり、そういった活動をひっくるめて『働く』ことは、個人のモチベーションや能力を引き上げ、結果的に企業の大きな効果を生んでいくと思うんです。

それに「会社以外の顔見知りをもつ」ことも、ウェルビーイングに繋がると思うんですよね。そこに共通の趣味や興味があれば、日々の愉しみも増えます。「Green&Wellness」が麻布台ヒルズのコンセプトですが、多くの人にとって、ワークスペースは一日の多くの時間を過ごす場所です。その場所が心身ともに心地よく過ごせるものであってほしいし、よりたくさんの成果やアイデアが生まれる場所でありたい。

私の野望は、自分の企画を通じて日本経済活性化に寄与することです。かつて海外企業がアジアパシフィック(APAC)の拠点を置くのは決まって東京でしたが、近年は シンガポールや香港、上海やソウルが台頭してきています。

どこにAPACの拠点を置くかの判断材料は、事業環境から従業員とその家族の生活環境、そして働く環境まで様々あります。森ビルはグローバルに事業展開する企業の要望を満たすオフィスや高品質な住宅、バイリンガルの医療機関、インターナショナルスクールの整備等を行ってきましたが、入居するだけでワンストップでそれらの機能が使えるような仕組みづくりができれば、東京を選ぶ有力な外資系企業も増えるでしょう。

もう一つ、強く願っているのは、日本発の社会を変革するようなイノベーションの創出です。そのためには日本人・外国人の枠を超えた交流が必要不可欠ですし、そこから生まれたアイデ アの実現を応援したい。だから熱量に火が着くような場所をつくりたいんです。みんな、心の中で思っていることを隠している気がするんですよね。ゆとり世代、ミレニアル世代、Z世代などと括られたりしますが、その殻や括りを破って、がやがや活動できるような場所をつくりたいんです。そういった様々なことをひっくるめて『働き方』なんだと、世の中の認識が変わっていったら、自分も、企業を、日本も、きっともっと元気になっていく。

ヒルズハウスは、そのために出来るあらゆることに、挑戦していきたい。たった3,000㎡の施設でなされる活動は蝶の羽ばたきのようにささやかなものかもしれませんが、ここから大きなうねりを起こしていきたいと思います。


稲原さんの「未来を創る必須アイテム」

サインペン
議論しながら考えを整理する時、サインペンは欠かせません。常に鞄の中に入れて持ち歩き、ホワイトボードが無い場所でもパッと取り出して自由にスケッチし、メンバーとアイデアを共有しています。

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