「街(ヒルズ)に住む」ことで得られる本物の豊かさとは?住宅担当の仕事の流儀
日々の暮らしの中で「ここに住んでいてよかった」と感じ、「これからも住みたい」と自分の街に愛着を持つようになっていく。その想いは、都市を育むことにもつながります。今回お話をしていただく佐藤麻衣子さんは、20年間にわたって住宅のフロント業務に携わっています。長年にわたって居住者に接してきた佐藤さんは、都市に暮らすことの価値をどのように考えて、日々の仕事に取り組んでいるのでしょうか? お話を通じて、「街に住む」ことで得られる真に豊かな暮らしが見えてきました。
華やかな世界で働くことに憧れて
自分が生き生きと働ける場を見つけるための視点は、人それぞれ違うものです。私の場合は、「ホスピタリティの高さ」が求められることであり、大好きな「港区の街」であることも重要なポイントでした。
ホスピタリティを提供する仕事に興味を持ったのは、ホテルパーソンとしてブライダルやマネジメントに携わっていた母の影響だと思います。両親と一緒に名のあるホテルへ足を運ぶことも多く、ロビー空間の華やかさ、ホテルパーソンの洗練された立ち居振る舞い、そして利用するお客様にもスマートな方が多く、その光景がとても好きでした。そしていつからか華やかでありながらほどよい緊張感がある場で、たくさんのお客様を笑顔にする仕事に就きたいと憧れるようになり、最初の就職は港区にあるホテルを選び、コンシェルジュを経験しました。
「港区で働きたい」という思いがますます強くなったのは、ホテルを退職した後のこと。別の街でシステム系の仕事に就いたことがきっかけでした。港区で働いていた頃に比べ、通勤するときも、ランチへ行くときも、なんだか気分が上がらないんです。雑踏する街角を眺めながら「やっぱり私は、港区に集まる人や、街全体にある洗練された空気感が大好きなんだ」と気づいて。加えて、再び人と接する仕事をしたいという想いも強くなっていました。そんなとき、六本木ヒルズ開業のタイミングで、住宅フロントスタッフの募集を見つけ、「新しくできる街で住宅を運営する仕事に携わるって、なんだか楽しそうでわくわくする」と感じて森ビルへの入社を決めました。
温かなコミュニケーションは、健康な心から
住宅の運営業務は、お住まいの皆さまにとって住みやすい環境を作り、住宅物件の価値を高めていくことが主な仕事です。森ビルの住宅の価値とは、東京都心にあり、街(ヒルズ)全体を我が家として暮らすことができ、さまざまな個性が折り重なることでアイデアと可能性が生まれること。さらに、安全・安心の徹底も欠かせません。それらの価値が全て揃った住宅を提供できるというのは、森ビルの強みでもあるといえるでしょう。また、街と連携し、さまざまな企業や店舗でご利用いただける居住者限定の特典も、魅力のひとつとなっています。
そんな多様な価値を提供する中で、お住まいの皆さまと接することが多いフロント担当は、さまざまな相談ごとを直接受ける役割を担います。例えば、タクシーの手配や荷物の預かり、ランドリーの取り継ぎ、共用施設の予約、設備の不具合やメンテナンス対応、森ビルの施設やイベントに関する問い合わせなど。皆さまと長い付き合いをしていくからこそ、真摯な姿勢を持ち続け、些細なことの積み重ねを大切にしています。
住宅は、価値観やライフスタイルが異なるさまざまな方が日常として過ごす空間です。フロントにも各々の事情のもと、さまざまなご要望が寄せられるため、着地点を見つけるのが難しいこともあります。だからこそ、現場に立ち会い、状況を肌で感じながら、素直な気持ちでお話を聞く。そして公平な視点を持った提案をすることで、それぞれの方にとって暮らしやすく、心休まる場所が叶えられたら、と考えています。
そんな住宅フロントの仕事において、私がとても大切だと思うのは「健康な心」です。体調がよくないと、健康なときにはなんとも思わないことを難しく捉えてしまったり、ネガティブな話し方になったりしがちです。自分自身が心身ともに健康であるよう心がけることで、相手が求めていることの本質をしっかりと理解することが大事だと思っています。
また、皆さまに喜んでいただく光景を目の当たりにすることは、私たちの糧にもなります。特に印象に残っているのが、六本木ヒルズレジデンスを担当していたときのことです。クリスマスの少し前、あるご家族から「プレゼントを用意したから、サプライズでデリバリーしてほしい」というご要望を受けました。そこでスタッフがサンタの格好をして配ることに。そこから「せっかくだから、お子さんがいるほかのご家庭にもデリバリーのサービスをしましょう」と話が膨らんで。お声かけすると20件ほどの希望があり、サンタ企画は大変ご好評をいただきました。それ以来、森ビルのほかのレジデンスでも同様の取り組みを展開し、今となっては10年以上続く人気イベントとなっています。ほかにも、ハロウィンのときはラウンジで仮装パーティーをして、スタッフみんなで練習した出し物を披露したことも。こうしたイベントをきっかけに交流が生まれ、家族同士で仲良くなった方もいらっしゃれば、一緒に仕事を始めたという方もいらっしゃいます。自分の好きな住宅、自分の好きな街で、新たなつながりが生まれたときは、無条件に嬉しくなりますね。
妥協せずに品質を高めつづけることが、豊かさにつながっていく
私は現在、複数の住宅物件のマネジメントに携わっており、物件の管理運営の方針決定や、管理組合運営のサポート、サービス品質向上のためのスタッフの教育などを行っています。フロントスタッフの元には日ごろから街(ヒルズ)と接し、いろいろな状況を見ていらっしゃる居住者さまのご意見が寄せられます。そのメッセージに込められた「住んでいる街がこうあってほしい」という想いを、フロントスタッフが理解した上で、速やかに課題を社内に共有し、各部門と連携しながら対応しています。フロントに伝えたことがそのまま森ビル本社に届くことは、お住まいの皆さまにとっても安心材料のひとつになっていると思いますし、オフィステナントや買い物客など、街に関わるみなさんの満足や安心にもつなげられていると思っています。
また、改善点に限らず、スタッフへのお褒めの言葉もしばしばいただきます。スタッフに対して良い評価をいただけると嬉しいですし、サービス品質も含めた物件そのものの価値が上がっていくことにも喜びを感じています。そして、街(ヒルズ)を活かし育てることもまた、我々の使命です。皆さまに喜ばれる街の情報を伝え、ご利用いただくことで、より一層街が活気づくと考えています。
私が入社した時期は、まだまだ森ビルの住宅も少なく、森ビルとしてのサービスのスタンダードを確立させ、品質を統一し、向上させていく必要がありました。ですが、サービスは形のないもの。理想のイメージを明文化し、共有するのはとても難しいことです。フロントについて、ドアマンについて、清掃について…サービスのあらゆる面に関して、分科会をつくり、スタッフみんなで議論を重ねました。そして、品質管理基準の冊子やサービススタンダードを伝える映像を作成するなど、何年もかけて森ビルらしい住宅のあり方を可視化してきました。
2022年1月には、森ビルがこれまでに蓄積してきた住宅事業のノウハウを注ぎ込んだ「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」が完成。すでに入居率は約8割に達し、通勤、通学、ペットの散歩、ショッピング、イベントなど、生活が営まれる空間も生まれました。レジデンシャルタワー内でも、居住者専用ダイニング「虎ノ門ヒルズキッチン」やヴァレーサービスなど、既存の物件にはないサービスも追加され、今後さらなるアップデートも必要とされています。このように、より上質な価値を求められている今、エリア一体の運営管理を担う私たちの役割は、非常に重要なものになりました。特に、2023年竣工予定の複合施設・「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」は、虎ノ門ヒルズエリアに必要不可欠なランドマークとなります。このように段階的に拡大・進化していく街の繁栄を支えるため、お子様連れのご家族をはじめ、多種多様かつ国際色豊かなニーズに応え、全てのお客様に安全・安心で優しい街と感じていただくために全力を尽くす必要があります。そして私自身も、常に情報を得ながら、よりよいサービスを追求したいと思っています。
お住まいの皆さまが「住む」「働く」「遊ぶ」、さまざまな側面で街を楽しみ、使いこなし、大好きな街がより魅力的に育っていく。その様子を追い続けられることに幸せを感じますし、これからも東京が世界一の都市になることを目指しながら、住宅運営を通して、陰ながらそのお手伝いができればと感じています。