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「表現者に街を開放する」前代未聞のデジタルアートミュージアムの仕掛け人が描く夢

世界中の人を東京に惹きつける「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」(以下teamLab Borderless)。その仕掛人である杉山央さんは、学生時代は街をつかった活動を繰り広げるアーティストだった。

街はアート表現の舞台になると確信していた杉山さん。一方で、街には守らないといけないルールがたくさんある。両者の橋渡し役として、自分が街側に入ることでアーティストを支える立場になりたい。この気持ちが、「teamLab Borderless」に繋がっていく。

「表現者に街を開放する」。そのために自分に何が出来るのか? 彼のこれまでとこれから。変わらない想いと、さらなる挑戦について聞きました。

圧倒的な表現と才能に触れて

子供の頃からアーティストに囲まれていたんです。2人の祖父は文化勲章を受賞した日本画家の杉山寧と建築家の谷口吉郎。そして、作家の三島由紀夫が叔父でした。子供の頃はジョン・レノン、オノ・ヨーコ、イサム・ノグチといったアーティストが家に遊びにきて、ぼくは同じ歳のショーン・レノンと遊んでいました。

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アーティストって、いつも自分の好きなコトに夢中になっているんですよね。例えば、日本画家の祖父は、ずっと絵を描いている。仕事だからではなく好きだから描いているんです。そんな生き方に子供ながらに憧れていました。だから、おじいさんの画室で一緒に絵を描く時間が大好きでした。

一方で学校の絵画の授業は苦手でした。先生も含め、みんなが祖父のことを知っていて。自然と注目されてしまい、恥ずかしかったんです。自分のアイデアを表現すること自体が嫌いになり、鬱屈としていました。

だからこそ、枠から外れたいという想いをずっと抱えていた。絵を描くとか、彫刻を作るとか、建物を建てるとか。そういった規定された表現の外側に居たかった。

見つけ出した「いたずら」という自分らしい表現

大学生の頃はメキシコのプロレスラーのマスクの収集にハマっていました。メキシコ特有のカラフルなデザインが魅力的で200枚くらい集めていた。集めたマスクを友人に被せて遊んでいるうちに、街中にある銅像にも被せてみたくなったんです。ちょっとした「いたずら」ですよね。

「銅像レスラー化計画」と名付け、そこらじゅうの銅像にマスクを被せて回りました。ゲリラ的な表現は自分に合っていたようで、楽しかった。色んな人がビックリしてくれるのが面白くて。

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「いたずら」という表現を見つけてからは、それまでの鬱屈とした気持ちが嘘のように、表現することが楽しくなりました。例えば、街を歩いている人の頭上に勝手にマンガの吹き出しが表れるアイデア。知人と一緒にプログラムを書き、人の動きに連動して映像が自動追尾する装置「フキダシステム」を開発しました。

当時はインタラクティブな映像作品は珍しかったので話題になり、とんとん拍子でアートフェスティバルへの出展や新しい施設への導入が決まりました。後にアートを街に実装した成功例として、文化庁メディア芸術祭へ招待出展することに至るのですが、振り返ると、いまの体験型デジタルアートの先駆けになっているんじゃないかと思います。

この頃は何も考えず、やりたい気持ちが先行してやってました。街への「いたずら」をみんなが喜んでくれることが単純に嬉しくて。憧れていた祖父に、少しだけ近づけた気がしたんです。

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街が表現を制約しているなら、街を作る側に回ればいい

「銅像レスラー化計画」と「フキダシステム」の経験から、街は僕にとって自由な表現ができる場所だと気が付きました。街でどんなことをしたら皆が喜んでくれるかをずっと想像していました。もっとスケールの大きなことをやって皆を楽しませたい、と。

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一方で街にはルールがあって、銅像にマスクを被せれば怒られますし、フキダシステムを設置するのも多くの人を説得して理解を得なければいけない。

アーティストが持つ、枠に収まらない自由な発想と、それを禁止しなければならない街側の事情。どっちの気持ちも分かるから難しかったですね。

でも、もし何らかの方法で街の制約を乗り越え、自由な表現の場にできたなら。祖父のように自由に生きる人が街に溢れたら。

だったら自分が街をつくる立場に回って、表現者のために街を解放すればいいんじゃないか。そんなことを考えはじめたとき、森ビルに出会いました。ちょうど六本木ヒルズが着工した頃で、そこには広大な工事現場が広がっていました。こんなに大きな街ができるんだと驚いたのと同時に、この広大な街を表現者に解放出来たら、と考えたんです。

表現者のエネルギーが集まった「THINK ZONE」という場所

入社してはじめての仕事は、開業前の六本木ヒルズをプレゼンテーションするためにつくられた「THINK ZONE」の運営でした。床が16m×13mの巨大な映像ディスプレイになっていて、空間全体に自由に映像を映し出すことができる施設でした。

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この床の映像装置をつかって若手アーティストのコンテストを企画しました。また夜には音楽イベントをやってみたり、開業前夜の森美術館のプレイベントとしてメディアアートの展覧会を開いたりと。自分が街をつくる側として、アーティストと一緒にイベントをつくりあけることが、楽しくて仕方がなかったです。

この場づくりの経験は自分にとって大きな財産となりました。「表現者のために街を解放する」。今思えば、そのはじめの一歩だったと思います。

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チームラボボーダレスが目指した世界

「フキダシステム」や「THINK ZONE」での経験から、メディアアートには無限の可能性を感じていました。僕が六本木ヒルズで様々なアートイベントを企画していたちょうどその頃、チームラボがアートとテクノロジーを掛け合わせた新しい表現を武器に、世界で活躍を始めていました。

彼らは世界で活躍する一方、東京に大規模な常設施設をつくりたいと考えていました。森ビルも、世界中から人々を惹きつける魅力的な文化施設を東京につくりたいと考えていた。

だったら森ビルとチームラボとが組めば、東京から世界へとメディアアートを発信する施設をつくれるのではないか。

両者の想いはぴったりと一致しました。こうして、世界のどこにもない、デジタルアートミュージアム設立のプロジェクトが始まったのです。それは学生時代に描いた「表現者のために街を解放する」という夢そのものでした。

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しかし、振り返ればあらゆる面でチャレンジングなプロジェクトでした。前例もない。成功させなければならない。プレッシャーで押しつぶされそうだった。それでも、逃げ出さずにここまで来れたのは、社内外のたくさんの方の支えがあったから。東京を世界一の都市にするために、この施設が必要だと本気で共感してくれた。

2018年6月、お台場に誕生した「teamLab Borderless」。開業日の入場待ち列をチームラボと森ビルのメンバーと目にした時は、本当に嬉しかった。

「表現者のために街を解放する」。この夢は、僕一人だけでなく、たくさんの人と共有することで、実現に近づいていくんだろう。それを強く実感しました。

未来の都市を、アーティストだけでなくあらゆる表現者に解放するために

teamLab Borderlessには順路もなく、同じ作品を二度見ることができない。既存の美術館の境界線を超える大きなチャレンジでした。作品は壁を超えて部屋を出ていく仕組みにしてあります。それによって新しい体験価値をお客様に提供できたと思っています。

でも、まだコンテンツは施設の中に収まっている。次は、アートが施設を飛び出て街全体がミュージアムになるような体験をつくりたいと思ってます。そうすることによって、本当の意味でアートと街が一体となった、これまでに無い新しい街が完成すると思ってます。

2023年に「虎ノ門・麻布台プロジェクト」と「(仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の2つの新しい街・建物が誕生します。現在はこれらの街を舞台にした、全く新しいコンセプトの文化発信施設の開業準備を進めています。

アーティストだけでなく、起業家から研究者、ビジネスマンまで、様々な表現者が集まって、新しいアイデアを表現する場所にしたい。従来の美術館やインキュベーションオフィスという概念さえ崩して、様々なものが溶け合う場所にしたいんです。美術館からビジネスが生まれたり、そこに行かないと得られない体験があったり。この発信拠点からアイデアが街全体に染み出し、街を行き交う全ての人々のクリエイティビティを刺激する。その先に、街全体がミュージアムになるような体験が待っているはず。

すべての表現者のために街を解放するためには、より多くの人の協力が必要になってくる。例えば、僕の想いに共感してくれる若い世代。

彼らが表現・挑戦できる場を、今度は僕が作っていかなきゃなと思います。彼らがその想いを曲げずに貫けるように、背中を押せるような人になりたい。なぜなら、未来の都市の表現者は、彼らだから。

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杉山 央|Ou Sugiyama
学生時代から街を舞台にしたアート活動を展開し、2000年に森ビル株式会社に入社。タウンマネジメント事業部、都市開発本部を経て六本木ヒルズの文化事業を手掛ける。 2018年 「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」企画運営室長として年間230万人の来館者を達成。現在は、新領域企画部にて未来の豊かな都市生活に必要な文化施設等を企画している。一般社団法人MEDIA AMBITION TOKYO 理事。

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