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人と街を知る。街を創り、育む視点

美しい街並みに生まれ変わったとしても、そこに人が集まり、憩うことがなければ、それはいい街づくりとは言えません。

今回お話を伺う沢登悠輝さんは、2023年竣工予定の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の開発業務に携わったのち、現在は36年の歴史を持つ「アークヒルズ」の街を育む仕事に取り組んでいます。

沢登さんはこれまでのキャリアを振り返り、「11年間続いた都市開発の仕事の経験が、自分の土台になっている」と語ります。これまで地道に積み上げてきた経験を語る中で、過去と現在、そして未来へと繋がる、街づくりへの想いが浮かびあがってきました。

沢登悠輝|Yuki Sawanobori
2006年森ビル入社。「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の開発業務を2008年から2019年まで11年間担当したのち、タウンマネジメント事業部アークヒルズ運営グループに異動。一貫して地域に密着したコミュニティづくりに携わりながら、街を創り、育む仕事に向き合っている。

街の資源を最大限に活用するアークヒルズのタウンマネジメント

私は今、様々な施設が高度に複合する街を一体的に運営するタウンマネジメント事業部で、赤坂にあるアークヒルズエリアを担当しています。アークヒルズは、民間による日本初の大規模再開発事業として1986年に開業した、オフィス、住宅、店舗、ホテル、コンサートホールなどからなる複合施設。17年の歳月をかけ、職住近接、文化の発信、都市と自然の共生などを具現化した「ヒルズ」の原点です。
アークヒルズには、地元の方や訪れる方々に愛されるたくさんの場と、資源があります。

アークヒルズを身近にご利用される方は、「アーク・カラヤン広場」で毎週土曜日に開催されている「ヒルズマルシェ」を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。2009年から続くこの都市型マルシェは、新鮮な食材を購入できる場として、地元の方々にとって暮らしになくてはならない生活基盤のひとつになっているように感じます。

明るく開放的なカラヤン広場で開催される「ヒルズマルシェ」

また、サントリーホール屋上のルーフガーデンなど4つの庭園からなる「アークガーデン」は、約40,000本の樹木が植えられ、四季折々の植物や生き物が育つとても豊かな環境です。
お住いの方々やワーカーの皆さんに親しまれている心休まる場所であり、私自身もいつもこの庭園でリフレッシュしています。

「庭園では、キジバトが産んだ卵を見に来たり、カエルの大合唱が聞こえたり。生命のいぶきを感じますね」

広場やガーデンを舞台に集まる「魅力的な人々」や「豊かな緑」といった街の資源を活かし、「なくてはならないモノやコト(must have)」と「あったら嬉しいモノとコト(nice to have)」を組み合わせながら、人と人が交流する機会を創出し、持続的に繋いでいく仕組みをつくりたい。

そしてそれら多様な繋がりと活動を発信していくことで、街としての輝きが大きくなっていくと考えています。

タウンマネジメントに活きる、11年間の開発業務経験

タウンマネジメント活動において、地域の人たちとの関わりはなくてはならないものです。私がその大切さをはじめに学んだのは、過去担当してきた開発の仕事でした。
一般的にディベロッパーが手掛ける開発は、土地を所有する方々に土地を売ってもらう仕事だと思われているかもしれませんが、森ビルの開発はとても地道で、血の通ったものです。地元の方たちのコミュニティに飛び込んで、地域のことを教わりながら、一緒に街の課題に向き合う。面と向かうというより、同じ方向を向いて進んでいく感覚です。

前例のない大規模再開発事業となったアークヒルズは、開発当時地元の方からも賛否両論。はじめは様々なご意見があったと聞きます。それでも、ひとりひとりが街を想う気持ちと本音のぶつけ合いを続け、森ビルが目指す街づくりとより良い未来をご理解いただけたからこそ、地域の皆さんと一緒に再開発事業を実現することができたのだと思います。

私が開発業務で11年間担当したのは、2023年完成予定の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」です。「まだ半人前だから、地元の方々に勉強させてもらいなさい」と、当時の上司の言葉を受けて地元としっかり向き合い、地域の歴史、現状、コミュニティなど、長らく住まわれている方や事業をされている方々に多くを教えていただきました。

その間、印象に残る出来事が数多くありましたが、特に印象に残っているのは、10年ほど前、西久保八幡神社で行われた祭礼でのできごとです。お神輿を担ぐときに羽織る法被の帯の数が足りず、どうしようかと思っていたところ、担当していたおばあさんが私に、「これを使いなさい」と帯を貸してくださいました。その帯は、よく見ると家紋入り。後々わかったことですが、帯はおばあさんの亡くなったご主人のもので、ずっと大切にとってあったものだったそうです。おばあさんとは、数年かけて信頼関係を積み重ねてきていましたが、人生の一部である街や土地への想いをお預かりすることの重みを、一層強く感じさせられた出来事でした。

私は、その時の感覚を今でもとても大切にしており、タウンマネジメント活動においても街に集まる方々のパートナーとして同じ方向を向きながら、街を育み続けたいと考えています。

「開発の仕事は時間がかかるもの。再開発に否定的な方もいましたが、地域のお祭りに参加したり、自主的な清掃活動を継続するうちに、少しずつ打ち解けてくれるようになりました。街を知り、人と人との関係性を育てていくことにやりがいを感じました」

未来を創造するために、多様な視点で都市を見つめる

開発の仕事の現場では、再開発前の地域を歩いて街の課題を観察することができました。現在は竣工から36年経過するアークヒルズの街を、徹底的に観察し課題解決に取り組んでいます。再開発の前と後、時間的な視点を変えて街の様子を観察することで、より先を見据えた街の未来を想像したいと思っています。
また、地域に密着することは、いわゆる「虫の視点」を養うことに繋がりました。同時に広くエリアを俯瞰し、それぞれの地域の役割を考える「鳥の視点」も持ちながら「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の街も育んでいきたいと考えています。

様々な考えをもった人々がお互いの視点や意見を尊重しあい、それぞれにとって心地よく憩える場所となることを目指したい。
これが実現できれば、街は自ずと輝き続けると思っています。

「街の主役である人と、それを囲む緑を最大限に尊重することで街は自然と価値を高めていくと思います」

アークヒルズは住む人や働く人、訪れる人のことを考えながら大切に維持管理され、運営されてきました。36年間の丁寧な積み重ねの結果、新築のころには備わっていなかった調和や人々の愛着といった魅力が備わっていると感じています。これから誕生する「虎ノ門・麻布台プロジェクト」も竣工当初から注目を集めると思いますが、そこから何十年もかけてさらに育てていきたいと思います。これからも街の可能性を信じて、いつまでも愛される街の運営に携わりたいですね。

沢登さんの「未来を創る必須アイテム」

「蓄電池」
蓄電池は屋内外問わず、場所に縛られない行動を実現してくれます。都市と森、集まる場所と自分に向き合う場所、多くの選択肢をもつことで、遊び心がくすぐられます。
これまでの生活の在り方そのものに疑問を持ちながら、これからの豊かな暮らし、都市の在り方について夢を膨らませています。

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