設計したいのは「誰も取り残さない場」。人と人をつなげる、若手社員の挑戦
「隣で誰かが泣いていたり、悲しんでいると、自分も悲しくなる。みんなにとって楽しいこと、幸せになれることを一緒になって考えていきたいと思うんです」
人と人がつながることに、大きな価値があると考える設計部の松山 紫帆さんは、「みんなが繋がれる方法」を模索し、仕事でも有志の活動でも、日々その実現に奔走しています。
その先に描くのは、未来の大きな街の姿。沢山の人と繋がり、夢を語り、これまでに見たことのない都市をつくりたい。
入社3年目の若手社員の、小さく熱い挑戦を覗いてみました。
建物の外側、「外部空間」に可能性を感じて
小さいころから、みんなで一つになって盛り上がることが好きでした。誰もが取り残されることなく、全員が楽しんでいることに喜びを感じるんです。楽しさを一部の誰かの中に閉じ込めるのでなく、みんなで共有したい。その方が、楽しいし、価値があるんじゃないかと考えていました。
大学では建築を学んでいました。建築や設計も好きでしたが、「外部空間」にも同じくらい興味がありました。きっかけは、短期留学で訪れたパリにある、モンマルトルの丘の階段広場でのひと時です。さすらいの歌い手と広場にいた人々とが一つになって歌を歌っていた時間が、今も心に刻まれています。
外部空間の賑わいは、人々に互いの熱量を感じさせてくれる。日常的に人々が外で快適に過ごす光景は、訪問者に「良い街だなぁ」という印象を抱かせてくれる。
地元の横浜にも、あんなシーンを生み出したいと、卒業制作では「川辺の広場」を設計提案しました。それは、横浜駅の側を流れる川の両岸に設けた階段状の広場を、川の水位変化によって多様性をもたらすというプラン。日常は水位を高くし、川縁に腰掛け水面を眺める憩いの場として機能する一方で、水位を下げると川底にステージが現れ、川辺の傾斜が観客席になる。川全体が一つのイベント会場として機能させることが可能です。
横浜は人通りの多い街ですが、人々の楽しい雰囲気や熱量は、居酒屋やカラオケなどの室内にとどまっています。それはもったいないという思いがありました。人が行き交うだけになっている通りや広場といった外部空間に、賑わいや憩いの場を設けられたら、街はもっと魅力的になるのでは、と考えたのです。
入社1・2年目で挑戦した、社内交流会・「GOFUN!」
日常も、非日常も、いつも人々の笑顔が溢れる都市をつくりたい。東京を、いつ訪れてもワクワクする、世界から多様な人や企業を惹きつけ、繋がれるような都市にしたい。そんな想いを持って、森ビルに入社しました。
大きな夢を描きながら、もちろん一足飛びにはいかないので、コツコツと今できることにチャレンジしていこう。その1つが、「GOFUN!」という社内交流のための取り組みです。
きっかけは、新規事業や業務改善を会社に提案できる「社内提案制度」です。アイデアを出したり、0→1を考えたりするのが好きという元来の性質も手伝って、質はまばらでしたが、複数のアイデアを提案しました。
3案も4案も出してくる社員は珍しかったようで、それを面白がってくれた担当部門の方から、ベンチャーキャピタルWiLが行うデザイン思考のワークショップを紹介してもらいました。その新規事業を考えるグループワークの中で出た、「先輩と交流したいけれど、コロナ禍で飲み会に誘ってもらいづらく、自分からも踏み出しにくい」という声に共感して。それを解決する社内交流の方法を考えるうちに、同じ問題意識を持つ森ビル社員と繋がって、「対面交流会」を行うことになりました。
実際の交流会には手応えがあったものの、同時に難しさも感じました。有志の活動として継続させていくには、労力がかかりすぎたのです。そんな時に、虎ノ門ヒルズにあるARCHというインキュベーションセンターの入居企業さんから「GOFUN!」というサービスを紹介いただきました。
「GOFUN!」では、主に2つの方法で社内交流が出来ます。1つ目は、現在・過去の仕事内容やスキル、趣味や休日の過ごし方といったプロフィールのシェア。2つ目は、その情報をもとにAIによってマッチングしセットされる、1on1のセッション(5分間のビデオ通話)です。
社内のアドレス帳に表示される、現在の所属部署だけでなく、これまでの仕事の変遷や、どんなことに興味があるのか、取り組んでいるのか。そんな一人一人のパーソナリティに気軽にアクセスできる環境や、コミュニケーションが生まれる仕掛けがあれば、そこから新しい街づくりの可能性が生まれるかもしれない。
そんな期待と共に、「GOFUN!」をスタートさせました。
当時は入社2年目。初めての挑戦で、さらに会社としても新しい試みで、上手くいくのか不安もあったのですが、蓋を開ければ約120名もの社員が登録してくれました。若い世代が中心になることを想定していたのですが、課長や部長、社歴が長い方も参加してくださって。同じ会社でも、普段は交流が持ちにくい方と話せる機会も多くありました。
私自身も、事務局として全体運営をしながら、参加者として頻繁にサービスを活用していました。その中で、いずれ異動してみたいと思っていた、外部空間の使い方を考える部署の社員とマッチングしたことがあって。憧れていた大先輩だったので、内心緊張しながらも、「最近熱い広場はどこか?」と盛り上がりました。広場愛を語りきるのに5分では足りず、改めて話そうということになって、その部署を志望していた同期も誘って、若手社員×入社15年目社員のランチが実現したりもしました。
現在、「GOFUN!」の取り組みは、回ごとにテーマを設けたオフラインの勉強会へと形を変えて開催しています。7月には「麻布台ヒルズと緑」というテーマで、緑を計画する設計部の外構チーム、緑の活用を考えるヒルズの運営チーム、さらに広く環境を考える環境推進部など、様々な角度からスピーカーを集めて交流しました。聞き手も、年次も部署もバラバラな沢山の社員が集まってくれて大いに盛り上がり、「いい会だったね」と言っていただきました。早速、「GOFUN!」で得られたネットワークが大いに役立っています。
今後は、内容の工夫だけでなく、運用する大変さというハードルも下げていきたいと思っています。例えば、声掛け、場所の確保、食事の準備など、何かと手間がかかる幹事の仕事が簡単に行える仕組みを設計したい。誰でも気軽に主催できて、次はあの人に声かけようかな、と軽やかに交流の場が開かれる仕組みをつくっていきたいと考えています。
多くの人と繋がれたら、未来の街の可能性も広がるはず
今年7月、設計部の外構チームに異動となりました。再開発プロジェクトの外構設計という、大好きな「外部空間」を担うチームで、先日開業した麻布台ヒルズの外構にも関わりました。麻布台ヒルズは、人と人をつなぐ街のシンボルとして、緑豊かな「中央広場」を据えた街です。開業後、子どもたちが元気に駆けまわり、多くの方が腰を掛けて語らう広場の様子を見て、改めて、広場の価値を実感しました。
スパンの長いものが多い森ビルの街づくり。時代の要請に応えながら、遥か先を見据えた都市づくりが求められます。私が中堅社員に差し掛かる2030年頃には、都市には何が必要で、森ビルはどんな街を提案していくべきなのか。六本木ヒルズが出来たときのような驚きや新鮮さを、私たちの世代もつくりあげていくには、何が必要なのか。
その時に、多様な人との繋がりは、1つの武器になると思うんです。これまでにない新しい街を生み出すには、これまで以上に様々な知識や視点が必要になる。例えば外部空間の緑を考えるにも、林業や生態系の専門家の知見をより生かしていければ、もっともっと持続可能な都市緑化が実現できるはず。誰も思いつかないワクワクする新しい未来をつくるためには、自分ひとりで考えるよりも、沢山の人と夢を語り、視野を広げ、協働する必要があると思うんです。今は社内の繋がりづくりに力を注いでいますが、それは第一歩だと思っていて、ゆくゆくは社外の方々とも繋がれる在り方を考えていきたいです。
「設計」という言葉が好きなのは、ハードであってもソフトであっても、「基盤をつくる」ということだからです。たまたま出来た、ではなく、誰もがいつでも気軽にジョインできる。多くの人と仲間になれる方法を設計出来たら、影響力は格段に上がるはずです。
みんなが一つになって、訪れた人がいつでもワクワクできる、世界中の人を惹きつける都市を、たくさんの人と共につくっていきたい。
今後は建築士の資格も取りたいですし、計画推進など上流の部署で、プランニングやコンセプトの策定にも関わってみたいです。グリーンを軸にして、ハードとソフト両方から語れるような人として成長し、よりより良い街づくりをしていきたいですね。