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子どもたちと共に学ぶことを通じて、育まれていった「次代の街づくり」への想い

自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の肌で感じて、自分の頭で考える。実際に体験することは、子どもたちの創造力を広げていくうえで欠かせないことです。本物の街「ヒルズ」を舞台に、2007年にスタートした「ヒルズ街育プロジェクト」(以下、街育)では、これからの未来を担う子どもたちに、街の魅力や都市づくりのノウハウを伝えながら、子どもたちの無限の可能性を拓いています。そんな街育のチームリーダーとしてプログラムの運営に携わってきた広報室の田部麗さんは、どのような想いでこの活動を続けてきたのでしょうか? 仲間たちと議論しながら見出していった街育の意義や、子どもたちとの関わりを通して自らが学んだことについて、お話を伺います。

田部 麗|Urara Tabe
2007年森ビル新卒入社。都市開発事務・タウンマネジメント事業部を経て、商業施設事業部で六本木ヒルズの商業施設運営を行うチームに所属し、物販テナントを担当。2018年から広報室にて、広告・WEBなどの業務を手掛けながら街育に携わっている。

仲間との連携、地域との繋がり、子どもたちの成長。街づくりに感じた可能性

思い返せば、森ビルに入社して以降、ひとりで黙々と進める業務よりもチームのメンバーと協力し、議論しながら新しいものを創りあげていく業務に数多く携わってきました。
六本木ヒルズ10周年の際は、六本木ヒルズという街の意義を掘り起こして対外的な発信を行い、六本木ヒルズの商業施設の販促イベントも企画しました。現在、広報室で企画・運営を行っている「街育」も、チームでの議論を特に大事にしながら取り組んでいる仕事のひとつです。

街育とは、子どもたちと一緒に未来の街について考える体験活動プログラム。森ビルが開発・運営する本物の街(ヒルズ)を教材に、様々な場所を探検し、「五感で感じ取る」ことを最も重視しています。しかしコロナ禍では、これまでのような対面でのプログラムが開催できなくなりました。これからどうしていくべきかを考えるうちに、「そもそも、街育の意義ってなんだろう?」と、原点に立ち返ることになりました。

「2008年の街育開催当初から実施している『ヒルズ探検ツアー』は大好評の企画です」

その答えを模索する中で、仲間の意見を丁寧に聞き、時間をかけて議論しながら徹底的に考え抜くことを続けられたのは、幼少期から学生時代にかけて育んできた想いがあるからかもしれません。

特に印象に残っているのは、学生時代に所属していたオーケストラ部での経験です。私は幼少期から習っていたバイオリンを担当していましたが、ソロ演奏とは異なり、100名ほどが同じ場で演奏するオーケストラは、まるでスポーツの団体競技のよう。そのプロセスも複雑で、年に2回開催される演奏会に向けて、選曲から指揮者への依頼交渉、楽譜集めまで、みんなでアイデアを出し合いながら企画を練っていきます。そして、曲に込められた作曲家の想いや時代背景などを調べて話し合い、個人練習、パート練習、全体練習などを経て、当日を迎えます。並行して、集客を得るためのチラシのポスティングや近隣施設へのポスター掲示のお願いなどもしてきました。このような地道な活動も含めて、「小さなことを積み重ねながら、地域と一緒に盛り上げていく」という、演奏会をつくる過程に面白さを感じていたのです。演奏会を行った後は、毎回楽しみに来てくださる地域の方々からアドバイスや激励の言葉をいただくこともあり、地域との繋がりを実感できることも、やりがいや達成感に繋がっていました。

私自身も、演奏会を聴きに行く側として、幼い頃から家族や友人とホールへ足を運ぶことがたびたびありました。特に、アークヒルズのサントリーホールは思い出の場所です。コンサートを楽しみ、その後は家族や友人と一緒に演奏の余韻に浸りながら緑豊かな広場を散歩したり、ゆっくり食事をしたりする。その街や施設のあり方が、心休まる時間を提供してくれているのだと肌で感じていたのだと思います。

大学生時代は、小学生向けの学習塾でアルバイトもしていました。子どもたちが解いたテストのマル付けの先生をしていたのですが、解けなかった問題があったとしても、子どもたちはアドバイスを素直に聞き、翌週にはできるようになっているということが多々ありました。その柔軟性や吸収力の高さに驚かされましたし、子どもたちの成長をサポートすることにも興味を持つようになりました。

こうした経験を経て就職活動の際に注目したのが、「街づくりの仕事」でした。きっと、地域と繋がり、次世代の成長に貢献できる仕事に携わりたいという想いが根底にあり、チームワークを大切にした環境で働ける森ビルに惹かれたのだと思います。そして会社について知っていくうちに、森ビルの地域の人たちと地道に丁寧に街づくりを進める姿勢に強く共感し、入社を決めました。

子どもたちの創造性と実行力を伸ばしていく。街育だからこそできること

前段でも語ったように、コロナ禍を受け「街育を通じて子どもたちに伝えるべきことは何か」という原点に立ち返る中で辿り着いたのは、「変化の激しいこれからの社会を生き抜くための力を身につけてほしい」という結論でした。

そして、街育の目標として「ひとりひとりの子どもたちが街づくりを自分ごととして捉え、主体的に未来の街づくりに関わる意識を持ってもらう」という目標を改めて定めたのです。
そこでは、いくつかの要点を掲げました。

・1日で完結する単発型プログラムを提供するだけではなく、継続的な学びにつなげる仕組みを取り入れたい。
・子どもたち同士が意見を交換し、刺激しあえる環境をつくりたい。
・オンラインであっても街育の特徴である五感を駆使した学びを大事にしたい。

ここから新たなプログラムの設計に落とし込み、誕生したのが、街育に参加した後に各自の継続的な取り組みを投稿できるオンラインコミュニティ「街育ひろば」です。街育で生み出されるさまざまなアイデアは、子どもたち自身が創造性を発揮した結果であり、それら全てが正解になります。そこで私たちは、継続的に街づくりについて考えていける「場」と「仕掛け」をつくることで、子どもたちが街育をきっかけにどんな気づきを得て、どんな自主活動を始めようとしているのかを可視化できるようにしました。

「街育ひろばの投稿を見ることで、私たちも子どもたちの原動力に火をつける手助けができていると実感できるようになりました。このように、参加してくれた子どもたちに寄り添い続ける関係性ができたことはひとつの成果だと捉えています」

特に印象的だったのが、2021年に開催したオンラインプログラムに参加してくれた女の子の取り組みです。そこでは「環境」をテーマに、ヒルズを題材に緑化や生き物について学んだのですが、プログラム終了後、その女の子は自分の街にも目を向けて、「地下鉄にお花を飾ったら、スマホから目を上げる人が増え、困っている人に声をかけられるようになるのでは」と考えて、地下鉄利用者にアンケートを実施しました。さらに、反対意見も踏まえて提案を修正し、駅長さんへの要望提出まで自主的に行いました。「街育ひろば」での他の子どもたちからの賛同や応援の声も、活動を後押しする力になったのでしょう。彼女のアイデアを実行する力には本当に驚きましたし、とても印象に残っています。

「より良い未来の街」を考える子どもたち

今年の夏からは、再びリアルの場で街育が開催できるようになり、オンラインとオフラインを融合させた、全5回の探索型プログラム「みらまちキャンプ」を開催しました。その内容は、「安全」「環境」「文化」という3つの軸で探検プログラムを実施しながら、少人数によるグループワークを取り入れて、「より良い未来の街のアイデア」をテーマに徹底的に議論するもの。最終日には、より良い未来の街の模型作品を制作して、みんなの前で発表し合いました。

子どもたちが制作した模型作品は、六本木ヒルズ内に展示された

1日限りの単発型プログラムよりも、街づくりの醍醐味や奥深さをしっかりと体感できるように。総合的な学びに繋げたい。そんな想いで開催した結果、参加した子どもたちからは、「街の見え方が変わった!アートがあると考えると、街じゅうが美術館に見えてくるのが楽しい」「こんなところに緑がある!など、自分の街の良さに気づくことができた」「自分の頭でこんな街になれば良いなと考えて、実際にかたちにすることをこれからも続けたい」といった声をいただいて。子どもたちの成長に触れられ、私自身もとても感動しました。

「保護者の方からも、『これまであまり自分の意見を人前で言うタイプの子どもではなかったので、考えを整理し、チームのみんなに伝えられていたことに成長を感じた』と感想をいただき、街育の可能性を再確認できたと思っています」

世代を超えて、街の未来と共に考えていきたい

2022年開催の「みらまちキャンプ」に参加してくれた子どもたちと

街育の現場では、子どもたちの自由なアイデアに刺激を受け、私自身が彼らから学ぶことの方が多いと感じます。特にこの数年、子どもたちの成長を継続的に見守ることを強く意識したプログラムを開催するようになったことで、私たちもまた「街のことをもっと知っていかなければいけない」とより強く感じるようになりました。そして子どもたちに問いを投げかける時も、自分なりの答えを考えるようになりました。

街育は私たち大人にとっても、凝り固まった思考を解きほぐし、柔軟な発想を生むきっかけになっていると感じます。だからこそ、街育では「親子」でご参加いただくようにしています。ひとりひとりが街づくりを自分ごととして捉え、主体的に未来の街づくりに関わる意識を持つことが大切という観点では、大人も子どもも関係ありませんから。そうして自分の住む街の歴史や特徴などを調べ、より深く知っていくと、街の良さや課題が見えてきます。そこから課題の解決策を模索し、様々なアイデアに思いを巡らせていくことで、街への愛着も芽生えていくはずです。

カエルやさまざまな植物が育つ六本木ヒルズの屋上庭園も、学びの場になる。
「街について考えるとき、子どもたちは自分主体ではなく、『家族と一緒に』『生き物のために』と、誰かのためを思う視点を持ち、アイデアを自分の言葉で表現してくれるようになります」

子どもたちの創造性や可能性は無限です。街育をきっかけに、子どもたちが自ら創造性を発揮し、活躍の場を見つけて、さらなる成長への可能性を伸ばしていってくれたら。街づくりに限らず、テーマが何であれ、自分の興味・関心があることに熱中して、ハードルを乗り越えていける力を身につける手助けができるなら、それこそが街育の社会的な意義だと言えるのでしょう。これからも子どもたちの興味を掻き立てる街育になるよう、ブラッシュアップしていけたらと思っています。

街育を通じて挑戦したいこともたくさんあります。たとえば、街育で生まれた子どもたちのアイデアを本物の街に実装すること。自分たちのアイデアに人が集まり、そこから新たなコミュニケーションや、さらに新しいアイデアが生まれていく。多くの刺激を受けて、さらなる学びや成長につながるはずです。また、今は小学生を対象に開催していますが、中学生や高校生へと対象世代を広げていくことにも興味があります。より広い世代の皆さんに「街づくり」について知ってもらい、いつか「なりたい職業」として「街づくり」が当たりまえに挙がる社会になったら嬉しいですね。

田部さんの「未来を創る必須アイテム」

「街育オリジナルタオル」
今年初開催した「みらまちキャンプ」に参加した子どもたちと、協力してくれたボランティア社員しか持っていない特別なグッズ。プログラムで出会った子どもたちのたくさんの笑顔や楽しかったという声が思い出され、次の取り組みへの活力につながるアイテムです。

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