ひとりひとりの熱量は街の磁力になる。経験から紡いた協働の面白さ
2023年秋に開業を迎える2つのヒルズ。その新たな街の誕生に向けて、最前線で活躍してきた社員のひとりが田中亜矢子さんです。
開業に先駆け発足した虎麻・ステーションタワー開業推進室に所属する田中さんは、2023年に開業を迎える麻布台ヒルズと虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの開業に向けた準備に携わっています。実行力や胆力が求められる現場で、日々精力的に活動する田中さん。その原点には、学生時代から培ってきた「共に街を育てていく」という想いがありました。
大学の研究で知った、協業の楽しさ
学生時代、私は建築デザインに関わる仕事がしたいと建築について学んでいました。そもそも建築に興味を持ったきっかけは、小学生の頃にあった自宅の建て替えでした。もともと小さいころからものづくりへの興味はあったのですが、工事の現場に入らせてもらい、描かれた図面が現実になっていく様子を見て、これまでにない面白さを感じたのです。最初は「大工になりたい」と言っていたほど。出来上がっていく過程を見て、建築に魅力を感じていました。その後建物の図面を描く「設計士」という仕事があることを知り、小学6年生の頃にはその道を目指すようになっていました。
大学時代、私が所属していた研究室では、チームで美術館や小学校のデザインコンペに参加するとともに、新潟県の中山間地域の廃校リノベーションプロジェクトに関わっていました。私自身、子どもが好きで、小学校という学びの場自体に興味がありましたし、地域の核的存在の場がリノベーションによってどう変化していくのかという点に興味がありました。
ただ私が参加したときには、デザインもリノベーションも終わり、すでに運用フェーズ。「どのように施設を活用するか」「いかにして地元の人たちを巻き込み、地域を盛り上げるか」「あまり知られていないこのエリアの豊かな環境を知ってもらい、来てもらうにはどうすればいいか」といったことを考えていく必要があり、面白くも難しい課題で溢れていました。
そしてOB・OGの方々にも協力してもらいながら、さまざまなワークショップを開催したり、地域の魅力を外の視点で発掘する宝探しのようなイベントを考えてみたりと、悩みながらも地域の方々と一緒に、この地域のこと、施設のことに向き合いました。そういった取り組みを続けるなかで感じたたことは、企画と設計の段階で、どれだけ運用のことをイメージできるかが重要なのではないかということでした。
実際に運用を手掛けながら、「施設にどんな仕掛けがあれば地元の人たちが来てくれるのか、どんな運営のイメージを先輩方は持ちながらデザインをしていたのか?実際運用が始まった今、何がこの施設に必要か。」と考えることが多々ありました。このような疑問をきっかけに、建築は「デザインして終わる」のではないことを目の当たりにしました。そこから、建築デザインだけでなく、エリアのことや人と施設の関係性、企画から運用までという時間軸など、視野を広げて、「施設を利用する人が何を考え、どう過ごすのか」といったことを考えるようになっていきました。
「外部の人も含めた協業が好き」と思うようになったのも、この頃からです。新潟のプロジェクトでは完全に新参者という立場でしたから、地元の人たちとのコミュニケーションは必要不可欠。そこで実際に暮らす地元の人と一緒になってじっくりプロジェクトに取り組み続けた結果、地元の人たちとの共通認識や共通言語が少しずつ増えていき、信頼関係を築くことができました。多様な職につかれているOB・OGの方々からの刺激もありました。またこのプロジェクト以外でも、コンペの参加はもちろん、修士計画も、チームで取り組み、発表前の追い込みの時期はまさに「祭より前の日」。チーム一丸となってつくり上げていく楽しさに、やみつきになっていました。
ひとりひとりの熱量が「磁力」となり、街の魅力を深めていく
私が森ビルに入社を決めたのは、特に森ビルの「都市を創り、都市を育む」という姿勢に共感していたからです。実際に森ビルが手がける街を見てみると、建築デザインのクオリティが高く、こだわりがあふれているだけでなく、その街で暮らしていく人たちのことや訪れる人たちのことが詳細にイメージされていて、非常に有機的だと感じました。不動産業界では建物が完成したとたん、「物件」という無機的なものとして扱われることが多いので、住み、働き、遊び、憩い、多様な人々を惹きつける森ビルの“建物”は紛れもなく「街」を創っていると思ったのです。ここでなら、私らしくダイナミックな街づくりに携われると思いました。
入社後、さまざまな仕事に携わらせていただきましたが、特に印象に残っているのが六本木ヒルズ開業の翌年に創刊された、都心エリアのためのライフスタイルマガジン「HILLS LIFE」の企画・取材と、MIT Media Lab(※1)をはじめとした、さまざまな企業や団体が最先端のテクノロジーや研究を持ち寄り、子どもたちとともに学ぶプログラム「MIRAI SUMMER CAMP」の企画・運営の2つです。
「HILLS LIFE」の取材では、テレンス・コンラン卿やトム・プリツカーさんをはじめ、森ビルとともに街づくりに取り組む国内外のビッグネームの方々からお話を聞ける非常に貴重な機会が多くありました。そのなかで最も印象的だったのは、ポケモンの石原恒和社長のインタビューです。今や老若男女の日常に溶け込んでいるPokemon Go!のローンチ直前に、子供たちの学びをテーマにお話を伺いました。石原さんは「Pokemon Go!の発端は、Googleとポケモンがともに六本木ヒルズに入居していてわずか数フロアで行き来できすぐに相談ができたことだ」とおっしゃられたのです。新たな事業が生まれること、そして人と人をつなぐヒルズという場の力を感じられる体験となりました。
『HILLS LIFE FOR KIDS |JULY 2016 no.79』
https://hillslife.jp/pdf/hillslife79.pdf
また、そういった関係者だけが高い熱量持っているのではありません。森ビルには街づくりにとことんこだわる人ばかりが集まって、それぞれの熱量が「磁力」となり、力を発揮するということにも気付かされました。「都市を創り、育む」どのフェーズであっても、社員一人ひとりが熱量をもち、プロジェクトに取り組んでいくことで、森ビルと協業する外部の方々も呼応するように森ビル社員と同じくらいの熱量でプロジェクトに関わってくださるのです。以前の取材で、森ビルと関係の深いデザイナー、トニー・チーさんからヒルズライフというメディアを長年続けている私たちにこんなメッセージをいただいたことがあります。
「この熱量を続けていくことが大事です。これこそが、森ビルの風であり、文化なのだから」
私たち一人ひとりが熱量を持ち続けることで、それが人を惹きつける「磁力」になる。だからこそ、森ビルの大規模なプロジェクトは成り立っていくのだと思います。
一方で、子ども向けのリアルイベントである「MIRAI SUMMER CAMP」は、MIT Media Labとの共同研究をきっかけに立ち上げたイベントで、参加していただいた、同じくMIT Media Labのメンバー企業だった方々も含め、「学び」への造詣が深く、新しいテクノロジーや研究の話も盛り沢山で、ともに企画を進めながらワクワクさせられることばかりでした。子どもたちと一緒に未来の学びのあり方について考えることができ、とても良い経験ができたなと思います。
「HILLS LIFE」や「MIRAI SUMMER CAMP」の経験を通して、なによりも自分自身が楽しいと感じることが、企画に関わるうえで大切であることを学びました。そして、そのように自分自身が熱量を高め続けるだけでなく、それを街に訪れる人々に伝えていくにはどうしたらいいか。私はまさにいま、「新しくできるふたつのヒルズを、いかに知ってもらうか」ということを考え続けていますが、皆さんに興味を持ってもらうためには、まずは自分がどう感じるかが重要ですし、その感性をヒルズの仕事に変換したらどうなるかという視点はやはり大切にしていきたいです。
ワクワクする街を目指して。鍵は「素人目線」
私が仕事で大切にしていることは、クリエーターの方々と一緒に考えているとき、たとえその分野では素人であっても自分の目線で街に来た人たちがどう感じるか、率直な意見を伝えるように努力することです。クリエーターとは違った視点を、街を創り育む立場として持ち続けることこそ、街の楽しさやワクワクにつながっていくのだと思います。
現在は虎麻・ステーションタワー開業推進室に所属し、2023年秋に開業する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーと麻布台ヒルズの開業準備に携わっています。
いま、現在進行形で2つの新しいヒルズを世に出すことに全力を注いでいますが、ヒルズは常に新しいライフスタイルや新しい体験を作っていく存在であるので、日本にとどまらずグローバルに通用するような協業もぜひやっていきたいなと思っています。森ビルのプロジェクトは、開業がおわりではなく、新しいスタートになるので、開業を機にさらにワクワクするようなことを続けていきたいですね。