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六本木ヒルズの52階にサブカルチャーの拠点を作った話

六本木ヒルズ 森タワー52階、東京という都市を一望する「東京シティビュー」。その一角に、「TOKYO culture research」という、17m²ばかりの展示スペースがある。「東京の文化的特異点」を感じるこの場所が扱うのは、マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアートといった、東京生まれのサブカルチャー。

幼いころからマンガやアニメが大好きだった風間美希さん。この場所を立ち上げた彼女は今、小さな挑戦を繰り返しながら、その愛をさらに深めている。

マンガから都市を考えた学生時代

物心ついた時から、マンガが好きでした。小学生くらいの頃から毎日1冊以上読んでいて、この生活は今でも続いています。マンガの中のたくさんの物語に触れる中で、人間そのものに興味を持つようになりました。

高校は、単位制の少し実験的な学校に通っていました。自分でテーマを決めて3年間研究して、その結果を1つの論文にまとめるというカリキュラムがあったんです。

私が選んだテーマは環境問題。90年代は環境問題の深刻化がメディアで多く取り上げられていた時代でした。環境問題は人間の生活の結果だから、人間の考え方が根本的に変わらない限り解決しない。

マンガやアニメがおもしろいから人気が出て、世の中に馴染んでいくように、みんなが楽しい!と思いながら解決できたらいいのに、と漠然と考えていました。(私が一番影響を受けたのはドラえもんの33巻の短編『さらばキー坊』です)

研究を進めていくなかで、森ビルという会社があることを知りました。当時は2002年で、六本木ヒルズがもうすぐできるタイミングでした。森ビルで働けたら面白いかもしれない、と初めて思ったのは、高校3年生の時でした。

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大学時代は興味のあることは全部やろうと思って、文化人類学、漫画、哲学、展覧会、都市社会学など、様々なことを学びました。

大学1年生のときに、「東京シティビュー」で夜景を見ていたときに、その場で友達に「私たぶんこの会社入ると思うわ」と、冗談半分、本気半分に話していたことがありました。結果的に、今こうして森ビルで働くことができているので、あのときの自分を信じてよかったと思っています。

かっこいいもかっこ悪いもひっくるめて、日本のカルチャーだ

森ビルの入社面接の頃から、「東京シティビュー」に携わりたいとずっと話していました。「東京シティビュー」に携わりたかった理由は、都市と密接に関わっている施設だから。東京という都市でたしかに盛り上がっている、マンガやアニメというカルチャー。そのパワーを吸い上げ、発信し、東京全体を盛り上げるような仕組みを作りたいという想いがありました。

「東京シティビュー」に異動して、サブカルと呼ばれるジャンル、「初音ミクカフェ」「まどか☆マギカ複製原画展」、そのほかにもゲームやアニメの展覧会を担当しました。複数の企画を実施したことで、「六本木ヒルズはマンガやアニメも文化として扱う施設なんだ!」という認知も広がりました。


一方で、日本独自の表現でありながら、マンガやアニメを芸術として認めないという風潮があったのも事実。それでも、私の大好きなマンガやアニメは、50年後、100年後に振り返ったときに、確実にカルチャーと呼べるものになっているはず。かっこいいもかっこ悪いも全てひっくるめて日本のカルチャーだ。そう信じていました。

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東京のカルチャーの現在地を「リサーチ」する

2018年には、さらに深く東京のカルチャーを「リサーチ」するための場所をつくりました。「東京シティビュー」で様々な展覧会を企画、実施していく中で、まだ小さくとも冒険心にあふれる、新しいカルチャーシーンを迎える場所が必要だと感じていました。

そこで、絶え間なく変化する東京のカルチャーシーンを発見・研究する、「TOKYO culture research」という小さな展示スペースを企画しました。あったのは、レストランの横の使われていない17m2のスペースと、名もないカルチャーシーンへの想いだけ。誰に指示されるでもなく、0から企画書を書いて上司に提案しました。

結果的には、「平成展」にはじまり、「THE EXHIBITION OF HOMEFUL −NEW HOME, NEW HOPE−」「YXMR FASHION RESEARCH やくしまるえつこ衣裳展」など、新しいカルチャーを見せることができました。やくしまるえつこさんが、「展望台の大スペースでなく、この場所で展示がしたい」と言ってくれたことは、とても嬉しかった。

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予測不可能な「変なもの」が街のおもしろさをつくる

「TOKYO culture research」の企画の中で、面白い展開ができたなと思っているのが、「つげプロジェクトVOL.1 ねじ式展」です。「美少女戦士セーラームーン展」でご一緒させていただいた講談社の方からご相談をいただいたのがきっかけでした。

ご相談をいただいて、つげ義春作品が描く世界観はきれいなミュージアムでやるだけでは物足りない。と考えました。原画は「TOKYO culture research」に展示しつつ、つげさんの世界観を感じられる空間を別のところにゲリラ的に作ったらどうか。展望台のスペースに捉われず、六本木の外に展開していくことで、展示表現に多様性を生みだせるのではないか。

そこで、Anchorstar(アンカースター)の児玉太郎さん、空間デザイナーの野村郁恵さんと相談し、森ビルが所有する西新橋の未稼働物件に、つげさんの世界観を表現した1週間限定のシークレットバーをつくりました。

当日の運営は、何から何まで手作りでした。素人の私がバーのママさんをやったんです(笑)。実はこのために食品衛生責任者の資格も取りました。そのほかに雑誌編集者やアーティスト、「東京シティビュー」で一緒に働いているイベント企画会社の人たちも手伝ってくれました。缶ビールを出しながら「つげ義春のどういうところが好きですか? 」って、10代の美大の学生とお話したりしました。閉店してからも2時間ぐらい、森ビルやAnchorstarの皆さんで盛り上がったり。

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街のなかに、場所の雰囲気からすると違和感を感じるような「変なもの」が時々存在すると、人は否応なく注目しますよね。それがいつも決められた場所や表現ではなく、予測不可能で、変則的に出てくることに私はおもしろさを感じます。「大多数に受けるもの」「マイナーにしか受けないもの」「判断すらつかないもの」の全部が、おもしろさを構築するための重要な材料だと思っています。

ちなみに。年間発行部数160万以上を誇る少年誌のジャンプは「ジャンププラス」という、とても面白いアプリを運用しています。「ジャンププラス」アプリでは、王道で売れる作家はもちろん、新世代のための力試しの機会もちゃんと用意しているんです。アプリを開いた時に、毎回異なる作品広告が出て、新世代作品への誘導もしてくれる。これと同じように、都市の中にも一律同じではない、自由で飽きない場所がもっとたくさんあって欲しいし、作りたいと思います。

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リアルとオンラインが混ざり合う、展覧会の未来

4月のリニューアルオープンに向けて、「東京シティビュー」は現在改修工事中です。「TOKYO culture research」も今後形を変えていくかもしれません。コロナ禍のいま、リアルの展覧会がお客さんに何を見せることができるのか、改めて考えなければいけないと思っています。

オンラインで楽しめることと、リアルでしかできないこと。コロナ禍の私たち人間にとっては、その両方が重要であることが分かってきました。つまり、リアルとオンライン、その両方での展覧会を先鋭化していく必要がある。特に「TOKYO culture research」はもともと実験的な機能を持っているので、オンラインでの実験は向いているかもしれない。現在進行形で、試行錯誤しています。

ワクワクすることと、愛すること

オンラインでの実験にも繋がりますが、やっぱりワクワクすることをやっていたいですね。「東京シティビュー」と初音ミクとのコラボカフェを初めて見たときも、「TOKYO culture research」を企画したときも、すっごくワクワクした。現代美術を見せる空間を標榜している場所で、アニメやマンガを見せることにさまざまな意見があったのも事実です。

それでもめげなかったのは、マンガやアニメへのゆるぎない愛があったから。これからも、私の大好きなアニメやマンガを愛してくれる人が1人でも増えるように、東京が面白いカルチャーで溢れるように。イベントや展覧会を企画していきたいです。

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風間 美希|Miki Kazama
2008年入社。予算部を経て、森アーツセンターギャラリー、東京シティビューでのチームリーダーとして展覧会企画を担当。2018年〜「TOKYO culture research」を運営し、東京のサブカルチャーを探求する。2021/4/1から新領域企画部所属(森美術館兼務)。好きなマンガはMUDMEN、ドラえもん、アラベスクなど。神話や民話が大好き。主に休日は三浦半島でフィールドワークをしてます。2019年に足をテーマにした写真集を出版。

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