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「居心地のよい在り方」を追及して。住宅プロデューサーは今日も走る

今回登場するのは、この3月まで住宅事業部に所属していた天野圭子さん。「都市の本質は、そこに生きる人にある」という森ビルの考えに共鳴し、心地よい暮らしにとことんこだわるお客様の理想を実現するため奔走してきました。
 
森ビルの住宅に住む顧客の皆様の暮らしに対する熱量とアイデアは、想像を超えるものばかり。理想を形にすべく、前例のないことにチャレンジする日々が、楽しくて仕方なかったと語ります。
 
虎ノ門ヒルズや麻布台ヒルズ。そのレジデンスで繰り広げられる仕事の様子を、少しだけ覗いてみました。

天野 圭子|Keiko Amano
2000年森ビル中途入社。新卒でアトリエ系建築設計事務所に就職し、住居設計に携わる。森ビル入社後は、メディア企画室、タウンマネジメント部にて従事。2013年、住宅事業部へ。居住者向けイベント等を担当したのち、2018年より、リビングソリューショングループにて主に分譲住宅のインテリアのプロデュースやリノベーションを担当。2024年4月より、新領域事業部。今後は、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの最上部に位置する、イベントホールやギャラリー、屋上ガーデンなどが複合した情報発信拠点「TOKYO NODE」の運営に携わる予定。


「居心地のよさ」はどうやって生み出すの?

10代の頃から、ラグジュアリーホテルのインテリアが大好きでした。大学は建築の道に進み、初めての海外旅行先はイタリア。「ローカルな、小さくてアットホームなホテル」と「グローバル展開する、ゴージャスなグランドホテル」、真反対のホテルに泊まり、それぞれの魅力を体感しました。幼い頃から憧れていたホテル体験に感動し、圧倒されて。旅行そのものよりも、ホテルでの時間が強く印象に残ったほどでした。
 
社会人になってからは、国内外の様々なホテルをとにかく渡り歩きました。当時、ニューヨークはデザイナーズホテルブームで、タイムズ・スクエアにある「W」や、ホテルプロデューサーのイアン・シュレーガーとデザイナーのフィリップ・スタルクがタッグを組んだ「ハドソンホテル」など、訪れるべきホテルに不足はありませんでした。

「特に印象的だったのはハドソンホテルです。『ニューヨークは夜通し遊ぶ場所だから、部屋は最小限。だけどニューヨークらしく、格好良く』というコンセプトで、エントランスやロビーは空間全体が緑で覆われ、反面、地下に潜むラウンジの床は一面黄色の光を放っている。空間によってデザインが全然違うのにすごくまとまりがあって、ニューヨークだからこそ!なホテルの在り方に感動しました」

限られた空間に意匠を詰め込み、最大限ラグジュアリーにあつらえたホテルという場所。どれも著名なデザイナーが趣向を凝らした空間なのに、「居心地がよい」「悪い」という感覚が生まれる。そのことに対してなぜか猛烈な探究心があり、給料の大半を費やしてホテル巡りをしていました。
 
そんな「居心地」への興味を、会社が汲み取ってくれたのか、2018年から今年の3月までの約7年間、住宅事業部で、居住者の方の住まいづくりをサポートする仕事をしていました。
 
所属していたリビングソリューショングループの担当業務は、多岐にわたっていました。分譲物件であれば、お客さまの理想の空間づくりのために、家具のコーディネートや照明計画だけでなく、売り出した部屋そのものをつくりかえることも。賃貸物件であれば、ピクチャーレールや照明設置から、次のお客様の入居に向けた営繕工事も担当していました。

「大学卒業後初めて就職したのは、アトリエ系建築設計事務所。その後も様々な仕事を経験しましたが、全てはこの仕事に行きつくためだったと思えるくらい、天職だと感じていました」

ご一緒させていただいたお客様は、世界中のラグジュアリーホテルを知り、富裕層の住まいを訪れ、その国の文化を体験してきた方々。生活体験が豊かだからこそ、自分にとってベストな「住まい方」を知ってらっしゃる方々ばかりです。
 
あるとき、ベッドに敷くマットレスにこだわりたいという方がいらっしゃいました。様々なメーカーを比較し候補となったマットレスに対して「一週間寝てみないと分からないから、世界中どこでもいい、このマットレスを体験できるホテルを探してほしい」と言われて、探し回ったことがあって。そのプロセスが、とても印象的だったんです。「ものすごく忙しいはずなのに、この方はとても丁寧な生き方をしているんだな」と。
 
実際、みなさん想像を超えるほどお忙しい方ばかりです。企業の経営者層やご自身で事業をされている方も多いので、ただでさえ日々パワーを使われているはずです。その上でなお、プライベートでも労力を惜しまず、結果的に人生のパフォーマンス全体が向上していく。こういう自己実現もありなんだ、ここまでやっていいんだと、なんだか勇気づけられたんですよね。

お客様が想像する100%に、プラス20%の満足を目指して

自分自身のことは、欲張りな人間だなと思います。一度、銀座の占い師にみてもらったことがあったのですが、「あなたは何を成し遂げても一生満足しない」って。20代の頃は、やりたいことは全部やろうと目まぐるしく活動していました。でもある日ぽつんと休みがあったとき、ふと、「私は本当に楽しかったのかな?」と思って。その問いに対して心から「Yes!」と答えられなかったんです。それで30代になって、自分自身の断捨離を始めました。自分が本当に必要としているものは何か。限られた時間の中で、何に時間を使って、何を達成したいのか。そうやって残ったものの1つが、この仕事でした。今は「如何によい仕事が出来るか?」を基準に、プライベートの時間や注ぐエネルギーもコントロールしていますが、そんな日々が「自分にとって居心地のよい在り方かも」と感じていて。
 
仕事で関わらせていただいた方々は、きっと人生の早いタイミングで、自分にとって大事なものは何か、明確に理解している方が多いのだと思います。そしてそこに対する意欲が強く、労力もエナジーも費やしている。そんな人生への情熱のようなものをお客様から感じ、学び、これまでに持っていなかった第六感が生まれたような気分でした。元々仕事人間ではあったのですが、お客様の住宅を共につくり上げる仕事は、それに輪をかけて楽しくて仕方なかった。

この仕事に就いた頃は、お客様の要望を100%叶えることを目指していました。でも、ここ数年は少し変わってきました。
 
人生に情熱的な方々ですから、住居に対するそれぞれの正解も、とても解像度高く理解してらっしゃいます。それでも私たちに相談してくれる背景には、そこに何らかの違和感があるんだろうなと想像します。求めていただいている100%の期待値に対して「思っていたよりさらに20%よかった!」と感じてもらうには、何が必要なんだろうかと。
 
例えば、今まで住んでいらした家に対して「なんだか落ち着かなかった」という違和感を口にされていたとしたら。そこからその方の好みや大事にしていること、家での過ごし方などお聞きするコミュニケーションの中で、「どこまでもシンプルなものを好まれるのかもしれない」と考えます。もしかしたら「壁の素材やわずかな模様も、研ぎ澄まされた生活の中でノイズになるのかもしれない」と想像してみたり。そうやって様々な情報を読み解きながらご提案した先で「さすが、わかってるね!」と言われたとき、あぁ、お客様のストレスを一つ、取り除けたんだなぁと思うんです。
 
彼らは確かに富裕層ですが、彼らにとっての「ラグジュアリー」とは、すべてを高価なもので満たすことではないと思うんですよね。それよりも、自分自身の心の声をなおざりにせず、丁寧に扱ってあげること。何がその方を満たしてくれるのか、理解すること。そういった向き合い方が「居心地のよい人生」を叶えてくれるのかなって、今はそんな風に「ラグジュアリー」を捉えています。

都市の未来をつくる人たち、のホームをつくる

森ビルで街づくりに携わる社員は、「自分が関わる仕事が街に、東京に、どんな影響を与えるか」を考えている人が多いと思います。一方、インテリアの仕事は、街との関係性が見出しにくいと感じることもあります。けれど、目の前のお客様の住まいや暮らしをつくるこの仕事は、「東京の、そして日本の未来をつくる人々のために、お手伝いすること」でもあるのかなと。
 
それにしても、日本や世界の未来をつくっていくような方々の発想力と熱量は、本当に刺激的です。ご自宅に、パーソナルジムやシアタールームやゴルフレンジ、サーバールームを希望されたり、ときには風水師をプロジェクトチームに呼んだりしたことも…。
 
私自身のマインドフルネスとしては、ここ数年、走ることにハマっています。どんなに仕事が忙しくても、身体が疲れていても、仕事を終えた夜に近所の公園を走っていると、本来の自分に戻れる気がして。仕事があまりにパワフルで充実しているぶん、走ることで自分をリセットしているのかもしれません。今のところ、私の「居心地のよい在り方」を形づくる重要なピースになっています。
 
けれどまだ、その理想には行き着いていない。私はまだ、お客様の、そして自分自身の「居心地のよい在り方」を追い求めて、走りつづけていくんだと思います。


天野さんの「未来を創る必須アイテム」

スマートデバイス
学生の頃からデバイスが好きです。新しいガジェットを手に入れては、仕事や暮らしの効率化を図っていて、なかでもApple WatchとAirPods proは、ランニングをする時に欠かせないアイテム。ケースには愛娘の名前を入れて、目にするたびにあたたかな気持ちになっています。