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新しい都市体験の「着火点」:TOKYO NODE LABから生まれる実験と共創

コロナ禍を経て、離れ離れになった人々をつなぐ様々なデジタルテクノロジーに注目が集まったのちに、人々が集い憩う”アナログ”な場である都市空間に、再びその価値が見出されています。
 
デジタルテクノロジーの本質は再現性に溢れていること。だからこそ、再現性の無い都市空間とデジタルテクノロジーを組み合わせることで、新たな体験創出のチャンスがあると語るのは、昨年10月に開業した情報発信拠点「TOKYO NODE」内の共創スペース「TOKYO NODE LAB」を運営する茂谷一輝さん。
 
ボリュメトリックビデオにXR、デジタルツイン……TOKYO NODE LABで日々進化しつづけるテクノロジーの可能性を追求する茂谷さんは、虎ノ門の街に新たな体験を生み出す「着火点」をつくろうとしていました。

茂谷一輝|Kazuki Motani
2020年森ビル入社。大学在籍時は信号処理を研究しながら、結婚式場での映像制作、MV監督を経験。大学院では屋内測位と行動認識を研究しながら、インスタレーション制作や都市デザインの企画立案を経験。入社後は新領域事業部にて虎ノ門ヒルズの情報発信拠点「TOKYO NODE」の企画と開業に従事後、研究開発機能「TOKYO NODE LAB」のプロデューサーを務め、新たな都市体験を創出する様々なプロジェクトを推進。都市の偶発性と再現不可能性を最大化することがミッション。


デジタルな映像世界からアナログな都市の中へ

僕はもともとデジタルの世界に興味があって、街づくりや都市開発とは縁が無いと思っていたんです。
 
はじまりは中学生の頃にアニメのMAD動画[編注:既存の動画や音声を再編集した二次創作映像]にハマり、大学に入ってからは友人のバンドのMVを撮ったり、結婚式場でエンドロールの動画を編集したり、自分でも映像をつくるようになっていきました。

大学では信号処理(光や音声といった信号を分析・加工する技術)の研究に取り組んでいたのですが、このまま研究を仕事にするのは想像がつかなくて。もちろん技術研究も面白かったんですが、映像やデジタルテクノロジーを使った表現や文化についても考えてみたくなり、文理融合を掲げる大学院へと進学しました。
 
大学院では映像や音楽だけでなく、インタラクティブアートやインスタレーションについて学びました。それまでは「映像」という決まったフレームの中で表現を考えていましたが、その外側にも表現の領域が広がっていることに気づかされたんです。
 
そんなときに出会ったのが、当時お台場にオープンした「teamLab Borderless: MORI Building DIGITAL ART MUSEUM」(以下MoDAM、2024年2月、麻布台ヒルズでお台場から移転・開業)でした。大学院でオーストリアの機関「Ars Electronica」がテクノロジーやアートでリンツの街を再生した事例などについても学び「都市」にも興味を持ちはじめていた頃で、森ビルというディベロッパーがこんな施設をつくれるのかと驚いたんです。

MoDAMを企画した社員に長文のメールを送りつけて、MoDAM内のカフェ「EN TEA HOUSE」でお話することに。そこで、森ビルというディベロッパーが都市空間における新たな体験を生み出そうとしていることを知りました。

当時は画面の中にとどまる表現に飽きていた時期でもあったので、現実空間ならではの偶発性や再現不可能性に満ちた体験を目の当たりにして、自分のやりたいことはこれだと確信しました。テクノロジーとアートと都市空間すべてを包括できる仕事に取り組める企業がほかに思い浮かばず、森ビルへの志望を決めました。
 
面接にあたって自分の考えを整理してみると、そういった分野の一致に加えて、街づくりは自分がやってきた結婚式のエンドロール編集と似た部分があるんじゃないか、と気づきました。都市開発も、街の風土や歴史など与えられた条件のもとでどんな空間をつくれば人が幸せになれるか考えるものですよね。とくに森ビルの開発はビジョンやストーリーをきちんと設定したうえで空間づくりに取り組んでいますし、ストーリーを通じて都市という広大な空間をつくれることに希望を感じたんです。

領域を超えた共創で新たな都市体験を

2020年に入社し、その後22年から関わることになったのが「TOKYO NODE」です。世界と日本、人と人など、領域を超えてさまざまな存在をつなぐ結節点(node)をつくる情報発信拠点として、23年10月のオープンをめざしていました。なかでも僕がメインで担当することになったのが、ラボ、スタジオ、カフェからなる「TOKYO NODE LAB」です。

2022年頃から、近くのビルの地下の1室を開業準備室として借りていました。開業企画の提案をくださったバスキュールさんはじめ、ここで皆さんと一緒に未来を構想していた頃が懐かしいです。

TOKYO NODE LABにはバスキュールやIBM、キヤノン、KDDI、日テレなど業種を問わず多様な企業が参画しており、「新しい都市体験が創出されるクリエイティブ・エコシステムの構築」をミッションに掲げながら、アプリの開発からスタジオ運営、ハッカソンイベントの企画に至るまで、さまざまな取り組みを展開しています。
 
具体的なプロジェクトとしては、たとえば開業前からバスキュールさんと仕込んでいたアプリ「TOKYO NODE Xplorer」があります。これはVPS(Visual Positioning System)という位置特定システムを使ったもので、かなり細かい部分まで建物の位置を認識できるため、現実世界と高度に融合した全く新しいARコンテンツを体験できるようになっています。

虎ノ門の街の中の、さらに特定の場所でしか体験できないARアプリなんてこの世に存在しませんから、プロジェクトに関わる全員にとって初めての挑戦でした。建設中のステーションタワーでスキャンしながらコンテンツをつくっていったのですが、建設状況に応じてスキャンのタイミングを変えなければならないなど、このプロジェクトならではの難点もありました。
 
同じくラボメンバーでありVRソフトウェア/コンテンツを開発するSymmetryさんとは、国土交通省とともに「TOKYO NODE “XR HACKATHON” powered by PLATEAU」と題したハッカソンイベントも実施しました。100名以上の参加者に街の高精細な3Dデータを提供し、街なかの公園からARでゴルフボールを虎ノ門ヒルズに打ち込む作品や、ドラムの打撃がARでそのままビルにエフェクトとして表示される作品、高層ビルに暮らす人々の身体性に着目した「XRマップ」とも呼べる作品など、多種多様なXR作品が誕生しました。

グランプリチーム「LUDENS」による「TORANOMON bird’s eye view」。立体的な都市空間において直観的に感覚しづらいアクティビティをXRで俯瞰するアプリケーションの提案。WIREDでも特集していただきました。

今年3月に発表した「TOKYO NODE DIGITAL TWIN HALL - RESPECT YOU, au」も、まさにこの虎ノ門を舞台にデジタルツイン(現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組)をつくって新たな体験を生み出すものです。TOKYO NODE内にあるイベントホール「TOKYO NODE HALL」をデジタル空間上で再現し、リアルとデジタル両方でライブなどを体験できる環境を整備しています。3月には[Alexandros]さんがデジタルとリアルの融合したライブパフォーマンスを披露しまして、46Fから見える東京の夜景とデジタル空間の風景、両方の魅力を活かしながらこれまでにない体験を生み出せたと思っています。

クリエイティブ・エコシステムを育てるコミュニケーション

開業からいくつものプロジェクトに取り組んできたものの、実際には初めからやるべきことが決まっていたわけではなく、そもそも「TOKYO NODE LABとはなにか?」を走りながら考えていた気がします。とくに最初は「結局何をやる場所なの?」と聞かれてもうまく答えられなくて。ラボの空間をつくったりイベントを企画したり、プロジェクトを推進して実現して初めて、実感をもって「新しい都市体験を創出する」とはこういうことなのだと思えるようになりました。

このミッションを実現するうえで、コミュニティの重要性も感じるようになりました。TOKYO NODE LABにおいて、森ビルはプレイヤーのひとりだと思っています。実際にTOKYO NODE LABには16の企業から187名の人々が集まっていて、XRハッカソンに参加した約100人も作品をつくって終わりではなくコミュニケーションが続いている状況にあります。
 
森ビルがトップダウンでコミュニティやプロジェクトをつくっていくのではなく、それらが自然に発生するようなチームになったとき、その姿を「クリエイティブ・エコシステム」と呼べる気がします。

エコシステムを育てるためにも、最近はラボのメンバーのみなさんとコミュニケーションを積極的にとり、それぞれの声が聞こえ合う関係を構築できるよう心がけています。新規事業を生み出すことを至上命題とするなら再現性のある“型”をつくった方がいいのかもしれませんが、TOKYO NODE LABにおいては個人の「やりたい」や「面白い」をぶつけ合ったほうが面白い企画につながると思うんです。実際、つい先日もバスキュールのクリエイティブエンジニアである桟さんと雑談するなかで、特殊なギミックを使ったとある有名MVをARで再現したいと盛り上がり。その勢いそのままに、2人で実行したこともありました。個々人の心が動くことをまずやってみる、プロトタイプしてみることを、この場所は大事にしたいと思うんです。

チャレンジを生み出し続ける「着火点」

今後は、TOKYO NODE LABから生まれるものをもっと虎ノ門の街に還元していきたいと思っています。街に新たな体験を生み出すことで初めてTOKYO NODE LABのミッションを果たせるはずですから。

新たな体験を生み出すうえでは、「編集」と「ストーリー」がカギになってくると思っています。とくに現代の都市は建物や空間ごとに用途が定まっていて、オフィスならオフィス、住宅なら住宅にしか使われないことが一般的ですが、もっと自由に街を使えたらいいなと思っていて。バスキュールの朴さんとも以前から「街をクリエイターに解放したい」と話しているのですが、XRやデジタルツインのようなテクノロジーがあれば、もっと街で多様な体験を生み出せるようになります。
 
さまざまな人が暮らしている都市空間をどう読み替えて、どんなストーリーを組み込んでいくか──それは僕が昔から映像を編集するときに考えていたことと共通するものでもありますし、オフィスや住宅、美術館など異なる空間を集めることで豊かな体験を生み出そうとしてきた森ビルのビジョンとも合致するものでもあると感じています。

TOKYO NODE LABでの自分の役割は、コミュニティや街に対して、そういったムーブメントの「着火点」になることだと思います。そこから偶発的に、再現性のないプロジェクトや体験が生まれていく場をつくりたいですし、何より僕自身が、さまざまな人の思いや物語が詰まったこのうねりのなかにいられる幸せを噛みしめています。
 
デジタルテクノロジーは日々急速に変化していきますし、都市では偶発的で再現不可能なことが起こりつづけています。TOKYO NODE LABは、こうした不確実性の高いフィールドを舞台に、新しい体験をつくっていくことを志します。最初から完璧なものをつくったり発表したりするのではなく、プロトタイプしつづけることが大切なのだと思います。
 
そこでは、不確実性の高さゆえに、「やりたい」や「面白い」など個人の内なる意志だけが頼りになるときがあります。ラボメンバーがこの意志の「着火点」となり、虎ノ門全体に広がっていったら、ここでしか生まれ得ないプロジェクトや体験、コンテンツに溢れた街になるはず。この街で日々を営むひとりのユーザーとしても、そういう街になったらいいなと思っています。


茂谷さんの「都市づくりの必携品」

topologieのサコッシュ
スマホ2台と財布、名刺入れ、ハンカチ、AirPodsがぴったり入ります。このセットとPCがあればどんな現場でも仕事ができます。装備していると、会社の同僚にはよく「夏休みみたいだね」と言われます。

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