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下水処理膜の研究から、都市づくりの現場へ。「水と空気」を担う設備設計って?

快適に過ごすことができる、当たり前の毎日。それは、街を構成する大小様々な要素が、日々の改善を繰り返しながら機能することによってつくられています。
 
大学で「下水処理膜」の研究をしていた、設計部の岡本紫音さん。ニッチな分野ではあるけれど、そんな研究に理解のある就職先を探していたといいます。現在、設備設計チームでダクトや配管などと向き合う彼女に、建物の「水と空気」を引き受ける仕事の面白さについて聞きました。

岡本 紫音|Shion Okamoto
2018年森ビル新卒入社。大学では都市環境工学を専攻し、排水・下水処理の研究を行う。森ビルに入社後は設備設計の実務担当として、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの新築工事やビジネスタワー竣工後のアフターフォロー、アーク森ビル、六本木ヒルズゲートタワーの改修工事を担当する。



施設のインフラを担う設備設計の仕事

私は今、森ビルの設計部で設備設計の仕事をしています。
 
「設備設計って?」と思う方も多いでしょう。なかなかイメージしづらいと思うので、まずは私の仕事の紹介から始めたいと思います。
 
設計部の役割は、基本計画として建物の計画を練るところから始まり、設計事務所と協力して図面を作成し、実際にその設計図通りに街を形にしていくことです。社内に設計部を抱えるディベロッパーは珍しいのですが、森ビルの設計部は現在150人ほどのメンバーが在籍中。社内でも大所帯の部署となっています。その中に、建物の意匠設計をするグループ、耐震性など構造設計をするグループなどがあり、それぞれが専門性をもって仕事にあたっています。
 
私が所属する設備設計は、建物に必要なさまざまな「設備」を担うグループです。そこで私は、レストランやお手洗いなどで使用される水をどう給水・排水したらいいのか、使う人にとって快適な空調とはどんなものか、といったことを考え、計画し、設計し、実際の建物に実装させていく、「水と空気」にかかわる部分を担当しています。
 
現在計画中の新しい建物だけでなく、すでにある建物の改善も行います。たとえば、防災センターにいるビル管理のメンバーから「こんなトラブルがあった」と連絡が来たら、すぐに現場を見に行きます。そして、すばやく改善策を練り、的確な工事につなげ、同じ失敗が起こらないように部内で情報を共有します。また、オフィスや住宅の営業チームとも日頃からよくコミュニケーションを取るので、お客さまの最新のニーズなど、設計の参考になる情報も得られます。このように、いいものをつくり、改善するサイクルが早いところが、社内に設計部がある森ビルの強みだと感じています。

管理の現場社員には、よく相談に行きます。新築物件の水のタンクの容量を決める時には、「オフィスワーカーの方が一日に使う水の量と、社員食堂で使われる水の量はどのくらいですか?」と聞いてみることも。教科書上の数字だけでなく現場のことをよくわかっている、頼れる仲間がいるのがありがたいです

会社の中で「大切さを理解してもらえている」と思えること

都市の環境問題に興味があったので、大学では都市工学科で下水処理の研究をしていました。
 
一言で言うと、下水処理場で水をきれいにするために使われる膜に、汚れが詰まらないようにするにはどうするかというもの。「自分で手を動かし、自分の目で見る」ということが好きな私にとって、化学的な実験をしながら研究する日々はとても楽しかったです。

研究のために南砂町にある研究センターへ行き、生の下水をパウチに入れて大学の研究室に持って帰り、実験していました。写真はそれぞれ条件を変えて下水をろ過し続け、膜にたまった汚れの分析をしている様子です

研究に楽しさと意義を感じる一方で、実際の生活に役立つのはいつになるのだろう、今取り組んでいることのゴールってなんだろう、という焦りもありました。自分がやっていることが社会に反映されているという実感を得たい。目に見える結果が欲しい。そこで、大学院進学ではなく、学部卒で就職することを選びました。
 
私がいた学科の先輩は、卒業後には環境省や国土交通省に行く人が多く、話を聞いてみると、国として大きな制度をつくり、方向性を示す、ダイナミックな仕事は、確かに面白そうでした。でも私は「現場を見たことがない自分にルールはつくれない」と思って。実際に「つくる現場」に行きたかったんです。
 
もう一つ大事にしていたのは、これまでやってきた研究内容を「大切なこと」として理解してくれるかということでした。研究してきた「都市×水」をキーワードに、街づくりに関連する企業や飲料メーカーを当たりながら、その「水」という都市の構成要素を大事にしている企業を見極めようとしていました。「水」は一見地味な要素であるけれど、会社の中で「誰かが大切さを理解しているんだ」と思えることが重要だったんです。
 
実際にいろいろな企業のOB訪問をしたのですが、ニッチな研究ということもあり「都市の下水の研究している」と言うと、驚かれることがほとんど。そんな中で、森ビルの社員さんは、何人会っても驚かれることはなく、「うちの街づくりに深い関係があるよね」「街のひとつの要素だよね」「下水は地味だけど、大事な要素だよね」と、フラットに、そして真摯に受けとめてくれて。森ビルには六本木ヒルズをはじめ、商業やアートなどにおいても華やかなイメージがあったので、そのギャップに驚かされました。そして「この集団なら、自分がいてもおかしくないかも」と思い、森ビルへの入社を決めたんです。

自分の研究が活かせる場所で働いているんだ、と感じる瞬間

実際に入社してみると、想像していた以上に多様性がある会社で、びっくりすることばかりでした。最初は都市開発をやりたいと思っていたのですが、新人研修ではじめて社内に設計部があるということを知って。その設計部の研修がすごく面白かったんですよね。
 
まずは役員の説明から始まり、その後にさまざまな社員が出てきて、入れ替わり立ち替わり自分の業務について説明するという流れだったのですが、エレベーターについて30分、外構について30分…その業務範囲はとても広く、しかもそれぞれがそれぞれの道を突っ走っていて、熱量がものすごい。さっきまで電気の話をしてたのに次は木の話?! と、混乱するほどでした。
 
でもその感じがビビッと来て、どうしても設計部にいきたいと思いました。それで、研修の感想を講師やほかの社員に伝える「私のメモ」に、長いレポートを書いたんです。元々ある用紙に自分で2ページ追加して、研究してきた水循環の話も書きました。
 
それが功を奏したかのかはわかりませんが、その後無事、設計部に配属されることになりました。配属初日、研修を担当していた先輩からまっさきに「下水のことを書いた子だ」と声をかけられて。その後も「中水利用の現場にいくから、一緒に行こう」と誘ってもらうこともあり、自分の想いがちゃんと届き、研究してきたことをほんの少しでも活かせる場所で働いているんだと実感できて、とても嬉しかったのを覚えています。

ビルの地下にある中水処理室で。新人研修や外部の方の見学会など、ここで専門性を活かしながら説明をすることがよくあります

教科書通りには行かない。だから奥が深い

設計の仕事は多岐に渡り、またそれぞれに専門性が求められますが、その中で一つ、転機となった仕事がありました。六本木ヒルズゲートタワーの全館リニューアル工事です。一緒に仕事をする建設業者の方や工事担当の方はみんなその道で何年も働いてきたプロフェッショナル。20代は私ひとりで、つい萎縮してしまい、上司の指示をそのまま伝える、伝言ゲームの中継係のような働きしかできていませんでした。
 
「若手だから、信頼されていないのかも…」と思っていたのですが、あるときベテランの現場の人から「岡本さんがやりたいことをやればいいんだよ!」と喝を入れられたんです。自分の意思が乗っていなければ伝わらないんだと、ハッとさせられました。そこから、建物のためにやるべきだと思うことを主体的に言うようになり、自分らしく働けるようになれたと思います。

元々心配性なので、図面通りにできているか水漏れがないかなど、自分で見ないと不安なんですよね。そんなところもこの仕事に向いているなと思います

今年で入社して6年目。設備設計は「教科書通りにはいかない」と学ぶことが多々ありました。たとえば虎ノ門横丁の空調で使うエネルギーを分析していたときのこと。通常、建物を計画するときは「このくらいの人が利用するから、火はこのくらい。だから換気はこのくらい必要だろう」と、教科書を参考にします。ただ、教科書に「レストラン」という項目はあっても、「横丁」という項目はありません。横丁のような設計は、これまでになかった新しい空間の使い方です。あえて面積を抑えた店舗や通路の中で、密集した賑わいを生む「横丁」的な空間では、比例してエネルギーもたくさん使うのだということを学びました。

出来る限りNOと言いたくない。街を具現化する設計を担って

設備設計と向き合う中で、変化の激しいこの時代に「あらゆる可能性に対応できる計画か?」ということがテーマにあります。これまでになかったイノベーションを建物に取り入れていくためには、色々な可能性を考えて計画していかないといけません。そういう時に足枷になりやすいのが、得てして「水と空気」なんです。
 
たとえば、7月に竣工した虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの高層階にある情報発信拠点「TOKYO NODE」には、地上250mの屋上にプールを配置しています。高層ビルの上階まで大量の水を汲み上げるのはもちろん、下階に漏れないようにするのも大変なこと。無理だと言うのは簡単ですが、社内から新しいアイデアが生まれてくるのに、それを私たちが実現できないなら、設計部が社内にいる意味がありません。機能を損なわず、けれど世界観の邪魔をしないように、できる限りNOと言いたくないと思いながら仕事をしてきました。

2023年10月にオープンするTOKYO NODE。約10,000㎡という規模で、ビジネス、アート、エンタメなどが領域横断する空間を実現すべく、たくさんの部署が協力してプロジェクトを進めています

私は理系ながら、学部卒で就職するということを選択しました。その少しイレギュラーな経験を踏まえて理系の学生さんに伝えたいのは、「森ビルを志望するなら、必ずしも建築や都市工学の勉強をしていなくても大丈夫だよ」ということです。実際に、設計部には原子力や地中熱の研究などニッチな研究をしてきた人も多くいます。直接的な専門でなくても、広く興味を持ってチャレンジできる人であればきっと活躍できるはずです。
 
私自身、これからやってみたいこともいっぱいあります。森ビルは専門性を活かすこともできるし、理系だから理系の部署だけということもなく、文系・理系区別なく、さまざまなことに挑戦できる環境です。一つの部署からしか物事を見られないのはつまらないので、都市政策や財務、営業、ビル管理など、一度違う部署に出てみたいという想いもあります。そして、色々学んだらまた、設計部に戻りたいですね。設計部の仕事は奥が深いですから。

岡本さんの「未来を創る必須アイテム」

安全靴
ゲートタワーのプロジェクトの時、チームの仲間が用意してくれた大切な靴。設計部は現場を自分の目で見ることが大事と先輩方にもよくアドバイスいただきますが、この靴は通常の安全靴よりも軽いので、いくらでも歩くことができます。今も愛用しているアイテムです。

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